バイトから年商20億円企業の社長に 22歳“ココイチ新社長”が語る「プレッシャーよりワクワクが大きい」日々
「会いたい人に会いに行く」は、その名の通り、AERA編集部員が「会いたい人に会いに行く」企画。今週は話題のバイト出身社長に、カレー大好き記者が会いに行きました。 【写真】予想外の“ガッツリカレー”に笑顔弾ける諸沢さん * * * 「最初は『ふざけているのかな?』って思ったんです」 そう話すのは、横浜市育ちの諸沢莉乃さん(22)。今年5月、「カレーハウスCoCo壱番屋」などをフランチャイズで運営するスカイスクレイパーの社長に就任した。 15歳でココイチのアルバイトを始め、21年には16人目となる本部が認定する接客のスペシャリストの称号「スター」を獲得。その活躍を見た社長の西牧大輔さん(現会長)から社長交代の打診を受けたのは、まだ20歳の頃だった。 大学も出ていなければ、経営の勉強をしたこともない。そんな自分に突然白羽の矢が立ったことを、どう感じたのか。そう尋ねると冒頭の言葉が飛び出した。 それでも、「冗談だったとしても、本気にさせよう」と思い、即答した。 「半信半疑ではあったけど、冗談だとしてもおもしろいし、その可能性が0.01%でもあるなら、『はい』って言っておいたほうが、話がくるじゃないですか。だから、『私でよければ』って」 その後も西牧さんと会うたびに、事業継承の話になった。「あ、本気なんだ」と気づいて2年。ついに、年商20億円企業の社長になった。 諸沢さんが社長に就任するというニュースは、瞬く間に話題になった。同社が打ち出したプレスリリースにも「驚愕の事業継承」「後継者に選ばれたのは22歳のフリーター!!」という文字が躍り、経済新聞でも取り上げられた。 新しい挑戦に期待が膨らむ一方で、「若さ」を押し出すことが足かせになったり、ネガティブに働くこともあるのではないか。そんな心配がよぎった。
だが、屈託のない笑顔でこう話す。 「これからそう感じる日がくるのかもしれませんが、今はないですね。以前メディアに取り上げていただいたときには、SNSで『お飾りだろう』と書かれたこともあります。でも、私が注目されることで会社のみんながよろこんでくれるなら、飾りでもいいかなって思っています」 言葉の端々から、地に足をつけ、一歩ずつ着実に進もうという意思が伝わってくる。社長の打診があったときも、楽しみに感じたことは覚えているが、誰かに話した記憶はあまりないという。 「実家に暮らしていますが、親にもすぐには言いませんでした。友達にも最近やっと言ったぐらいなんです」 巷のインフルエンサー社長のようにSNSを活用するわけでもない。社長として発信したほうがいいと思いつつ、なかなかできないでいる。 そんな等身大さがある一方で、日々のルーティンはがらりと変わった。朝は各店舗から上がる日報に目を通すことから始まり、ミーティングにも顔を出したり、店舗を巡回したり。諸沢さんを“後継者指名”した西牧さんに同行し、その振る舞いを学ぶこともある。「寝たらすぐに忘れるタイプ」だから、教わったことを覚えるために会話を録音して、何度も聞き返す。 当面の目標は「西牧さんを完コピすること」だ。 「就任後3年は西牧が並走してくれるので、今年は50%、次の年は75%って近づきたい。今すぐに新しい風を吹かせたいという思いはないんです」 4月中旬、諸沢さんに会いにココイチの店舗を訪れた。社長就任を2週間後に控えても、プレッシャーよりワクワクが大きいという。 「知らないことが多すぎるので、大丈夫かなと思うことはあります。でも、私の苦手なことは、それが得意な人がフォローしてくれる。最初は『一人でやらなきゃ』ってプレッシャーを感じていたけれど、今はみんなで作りあえたらいいなって考えに切り替わっています」 (編集部・福井しほ) ※AERA 2024年5月13日号
福井しほ