石原さとみの最高傑作は? 「役」と同化する演技の秘密を徹底解説。ガチファンが「全盛期は今!」と断言する理由とは?
石原さとみにあてがきした「日本ドラマ最高傑作」
そんな石原さとみの歴史の中でも「異質」と言われる作品が、2018年に放送されたドラマ『アンナチュラル』(TBS系)だ。 「不条理な死」を遂げた遺体を解剖し、その謎を究明する機関「不自然死究明研究所(UDIラボ)」を舞台としたヒューマンサスペンスだ。その高い作品性に、アンナチュラルを「日本ドラマ最高傑作」だと呼ぶ声も多い。 あくまでも遺体とその関係者にスポットを当てており、だからこそ1話ごとの濃度が深まり高い没入感を生み出しているのだが、石原さとみが演じたのは誰よりも「不条理な死」を憎む解剖医・三澄ミコト。 これまでの役のような感情をありのまま表に出す人物ではないのだが、主人公であると同時にストーリーテラーの役割を持ち、被害者、遺体に寄り添い淡々と「プロ」として仕事をするその姿は、これまで石原さとみが演じた女性の中で最も「自然」だと思った。 脚本家の野木亜紀子から「あてがきにした」と言われるほど彼女の素の部分が出ている役ではないだろうか。
石原さとみの尋常ではない役作り
そして2024年、ここまでの石原さとみの歴史を全て覆してしまう衝撃作、映画『ミッシング』が公開された。 ある日突然、娘が行方不明になり生活の全てが一変してしまった母親・沙織里。いつまで経っても捜索が進展せず苛立つ姿や、世間の誹謗中傷に傷つき憔悴していくそのサマは、思わず目を覆いたくなるほどだった。 『失恋ショコラティエ』や『ディア・シスター』の石原さとみと見比べるとその差に吐いてしまいそうになる。 石原さとみは、簡単な言葉で言うところの「憑依型俳優」ではないと思っていた。どんなにタイプの違う役を演じていても、その奥底には良い意味で「石原さとみ」を感じることができるし、それが彼女の大きな魅力だと。 しかし、この『ミッシング』に限っては、少し手も油断すれば「これ誰…?」と思ってしまうほど「石原さとみ」の部分がほぼ感じられず、映画というより、もはや「ドキュメンタリー」を観ているような感覚に近かったのだ。 それくらい完全に石原さとみと沙織里という役が「同化」していたのだ。画面に映る沙織里の髪や肌や唇の荒れ方を見れば、どれだけの覚悟を持って石原さとみがこの作品と向き合っているのかが、痛いほど分かってしまう。 この作品を経て、石原さとみがこれからどんな役を演じるのか、楽しみと恐怖で震えが止まらない。そして私はこれから「すき家」のCMでうまそうに牛丼をほおばる石原さとみのことを、どんな目で見ればいいのだろうか。誰か教えてほしい。 【著者プロフィール:かんそう】 2014年から、はてなブログにてカルチャーブログ「kansou」を運営。記事数は1000超、累計5000万アクセス。読者登録数は全はてなブログ内で6位の多さを誇る。クイック・ジャパン ウェブ、リアルサウンド テックなどの媒体でライター活動を行うほか、TBSラジオで初の冠番組『かんそうの感想フリースタイル』のパーソナリティも務め、2024年5月に初書籍『書けないんじゃない、考えてないだけ。』を出版した。
かんそう