「スポットライト浴びる そんな人になりたくて」鈴々舎美馬インタビュー
小さい頃からモダンバレエや吹奏楽など人前で表現をするのが好きだった少女が大学で落語に出会うも一度は一般企業に就職。再燃した“落語への想い”を貫いて、落語家の門を叩いた鈴々舎美馬。二ツ目に昇進して一年もたたずに『NHK新人落語大賞』決勝進出を勝ち取った実力派で、前座時代からSNS、YouTubeなど際立つ発信力で唯一無二の個性を発揮。毎年『女芸人No.1決定戦 THE W』に挑戦するなど貪欲な芸へのこだわりを語ってもらったインタビューをお届けします。 【全ての画像】鈴々舎美馬インタビュー写真の模様(全10枚) ──落語家になった経緯を教えて下さい。 出身は神奈川県相模原市です。4人家族で、ふたつ上の姉がいて、次女で末っ子で伸び伸びとマイペースな性格で(笑)。小さい頃から踊りとか歌が好きで、3歳から小学校卒業までモダンバレエを習っていました。中学からはフルートを習い始めて、人前で表現するのが小さい頃から好きだったんだと思います。落語とは大学生になって初めて出会いました。 中学高校と部活動で吹奏楽をやっていたので大学でも入るつもりだったんですけど、サークル選びのときに、この日に吹奏楽部の見学に行かないと実質入部できないという大事な日を間違えてしまって、吹奏楽部に入部し損ねてしまったんです。仕方なく何にしようかなぁって悩んでいたときに落語研究部の扉をなんとなく叩いたらすごく空気感が肌に合ったんです。部室がレトロで四畳半の畳があって、年中こたつがあるようなところで。そこにファミコンがあって男女の先輩たちがお菓子食べながら楽しそうにゲームしてるんです(笑)。アニメだとかゲームも好きだった私は部室に入り浸るようになってたところで新入生歓迎落語会があって、普段だらだらしてしっかりしてないように見えた先輩たちが着物に着替えて、新入生に向けピシッと古典落語をやっている姿がギャップも手伝いすごくかっこよく見えて、自分もやってみたいと思ったのが始まりでした。大学1年生の文化祭での初高座で、お客さんが自分の落語を聞いて笑ってくれるという初めての経験をしてあっという間に落語にのめり込んで、大学4年生のときにはこのまま“落語家になりたい”という気持ちはあったんですが、先輩たちからの噂でプロの修業の厳しさを伺ってたので、内気でメンタルが弱い自分には無理だなと思って1回諦めて就職をしたんです。それでもずっと落語は好きだったので寄席に通って生の落語に触れているうちに、そちら側の本物の世界に行きたいと腹を決めて会社を辞めて飛び込みました。 ──バレエや吹奏楽を志向していた学生時代から落語で高座に上がるという振れ幅が興味深いですね。 今までは吹奏楽部にしろバレエにしろ、チームというか大勢の中のひとりとしてやっていたけれど、落語で初めて自分ひとりだけで、自分だけが発する言葉にお客さん全員が反応して世界を共有するという味わったことの無い感覚にすごく興奮をしました。内気で人見知りな私が、高座中は緊張とか恥ずかしさなんて全く忘れて、純粋に心から楽しめたんです。それが自分の中で本当に不思議で、何ものにも代え難い気持ちになっていったという感じですね。 落語をすることによって人前で話すのが苦手な部分も、言葉を上手く継ぐことができるようになるんじゃないかなと思って。実際にやってみて、大学4年間では全くその性格は変わらず、実は今も人見知りで口下手なままなんですけどね(笑)。ただ、高座に上がると自分の中で明確にスイッチが切り替えられると確信が持てたとは思います。 ──一度就職したのに、やはり諦めずに落語に挑戦してみようと思えたきっかけは何かあったのですか。 新卒で入社したのがエステサロンなんですけれども、これが毎日なかなかの体力仕事で、疲れ切っている中ぼーっとしてたんですかね。エステサロンってちょっとラグジュアリーな建物なんですが、それも相俟って朝、掃除をしているときに施術台の照明がスポットライトに見えたんです。そこで「あぁ、私はスポットライトを浴びるような人になりたかったんだ」と思い出したんです。忘れかけていた“落語を好きだった自分”の想いが再燃したという感じです。 ──落語家になろうと決めて、鈴々舎馬風師匠に弟子入りしたのですね。そのあたりの経緯も教えていただけますか。 学生時代に全国の学生たちの大会が岐阜であって、その大会の司会を鈴々舎馬るこ師匠がされていてそこでご縁をいただいて。学生の落語会も開催して下さってお世話になっていたんです。入門するときも“プロになりたかったら相談に乗るよ”とおっしゃって下さって、“馬風門下”として一緒に馬風師匠の元にお願いに上がって下さり、入門を認めていただきました。馬るこ師匠と一緒に初めて馬風師匠のお宅にお伺いした際に、最初は師匠も“高齢だから”とおっしゃられていたんですけれども、その時におかみさんと娘さんもいらしてですね、“大丈夫よ”と味方になって下さって。 おかみさんご自身も浪曲をされていて、浪曲の世界での厳しい修行をされ、落語界も合わせていろんな方々を見てこられた上で“いいんじゃない、取ってあげたら”と初対面で私を受け入れて押して下さいました。それが先ず嬉しくて、師匠が“わかった”と弟子入りを認めて下さった時は感無量でした。 ──実際に弟子入りしてから覚えているエピソードはありますか。 私が前座になっての初高座を鈴本演芸場で上がらせていただいた際、『金明竹』というお噺をやらせていただいたのですが、馬風師匠が袖で最初から最後までずっときいて下さって、お言葉をいただけたことがすごく嬉しかったです。「お前は間(ま)がねえんだ。間が大事だ」とおっしゃって下さって。わざわざ“いち弟子の高座”を師匠が観るということは普段ないので、楽屋の皆さんも驚いてたくらいで。 それから私の中で常に「間が大事だ」という師匠のお言葉を胸に、日々稽古に励んでいったという感じですね。前座の頃よりおっちょこちょいエピソードが数知れない私自身が、何もできないというのはさほど変わらないんですけれども、いつも人にというかご縁に恵まれてですね、その都度その都度で、自分が挫けそうになったときに手を差し伸べてくださる方がたくさんついて下さって。良縁に恵まれていると本当に思います。その方々のおかげで、今でもこうして落語ができるという感謝を忘れずにこれからも精進したいと思っております。 ──2023年11月には二ツ目に昇進されましたが、その時にどんなことを感じましたか。 前座時代の高座に関しては、師匠から教わったお噺を15分間きっちりやるっていうのが役目でした。前座は楽屋仕事をするのが主な仕事なので、高座自体は期待されてないという前提があってこそ“よく頑張ったよね”とお言葉をかけていただくことが多かったです。ただ二ツ目になってからは、ちゃんと高座が評価されなければいけない。いきなり二ツ目から真打の方々と同じ土俵で戦わなきゃいけない中で、今までお噺することのなかった苦手なマクラや、落語自体のプロとしての出来にも注目されるようになるプレッシャーは大きかったです。前座だから許してもらえていたことが通用しなくなった今年1年は、やっていけるかの勝負どころだと、全力を出し切ることを誓って臨んだ期間でしたね。 ──10月26日に開催された『令和6年度NHK新人落語大賞』で、130名参加の予選を勝ち抜いて6名登壇の決勝に進出され、『死神婆』という演目で見事に登場人物を演じ分けて、少年ジャンプやXなど現代ネタを取り入れてました。 台本チェックで「もしダメだったらお伝えします」と言われましたが、そのままやらせていただけたことに感謝しております(笑)。やりたかったことが全て出来たのは大満足だったのですが、若い人にも落語で笑って欲しい!という想いが強すぎて、偏りすぎてしまったところはあったので、世代も性別も趣向も越えて全員が笑っていただける落語を次こそは見せたいと思っております。 ──YouTubeやSNSやサイト、コスプレ落語など、美馬さんの発信力が際立っています。 私は師匠の「どんどんやりなさい」という方針の元で修業をさせていただきましたので、前座の頃から他の一門では許されないようなSNSやYouTubeにも挑戦させていただけました。YouTubeでは自分が飛び込んで大好きになった落語の世界に皆にも飛び込んで貰いたい、聞いて貰いたい、好きになって貰いたいという一念のみで色んな企画を行わせていただいております。落語好きの皆様は勿論、普段落語を聞かない方、若い層、同性の女性の皆さまの落語に触れるきっかけに自分がなれたらと思っています。自分が楽しみながらこれからの落語に何か貢献できることがあればと、今後も発信を続けていきたいです。 ──これから先どんな活動をしていきたいですか。 今、女性の落語家が伸び伸びと活躍できるのも、道を切り拓いて下さった女性の師匠方のおかげだと思うので、私も後陣にそんな道を残せるような落語家になりたいです。落語って面白くて、人柄が全部露わになるというか丸裸にされると思っているので、人間的な魅力も備えて芸も備えて、アニメやオカルトや都市伝説が好きな私が、面白い女なのか人間なのか妖怪なのかわからないけど(笑)、人生を積み重ねてひとりの面白い芸人になりたいと思っています。自分の色を出せてその場に居るだけで喜んでもらえるような存在になりたいです。そしていつか全国を回るツアーができるような落語家になりたいですね。そして初めてぴあさんでグッズを作っていただきましたので、全国沢山のお宅でアクリルスタンドを飾っていただける噺家になりたいです(笑)。 日本テレビの『女芸人No.1決定戦 THE W』にも毎年挑戦しています。今年は落語家では唯一の参加だったようなので代表のつもりで臨んで、『W』のお客様にも凄く喜んでもらえたと手ごたえを感じることは出来たんですが、結果は及ばずでした。土俵が違えば戦い方も全然違ってくるのがよく分かり、落語で漫才やコントと勝負するのは難しいのかもと心折れかけましたが、でもやっぱり落語は面白いんだというのを証明したい。私じゃなくても、落語がトップを取るまで、これからも挑戦し続けていきたいと思っております。 取材:文=浅野保志(ぴあ) 撮影=源賀津己 <プロフィール> 鈴々舎美馬(れいれいしゃ・みーま) 1993年4月12日生まれ、神奈川県相模原市出身。2018年2月、鈴々舎馬風に入門。2019年7月、前座となる。前座名「美馬」。2023年11月、二ツ目昇進。 <サービス概要> 「ぴあ落語ざんまい」 月額料金:1,089円(税込) ■初月無料キャンペーン実施中! ※キャンペーンは事前予告なく終了する場合がございます。予めご了承ください。