史上もっとも後味の悪い日本映画は? 鑑賞注意の鬱邦画(4)救いがない結末…なぜ少年は殺人を犯したのか?
なぜ人は悲劇を愛するのか。この問いに、哲学者アウグスティヌスは『告白』で次のように答えている。「人は誰でもみな、自分では不幸になりたくないが、他人に憐みをかけることは喜ぶ。(…)そのために悲しみを愛するのだ」―。今回は私たちの憐みを引き出す「鬱な日本映画」をセレクト。比較的近年の作品を中心に紹介する。第4回。※この記事では物語の結末に触れています。(文:村松健太郎)
『MOTHER マザー』(2020年)
監督:大森立嗣 脚本:大森立嗣、港岳彦 出演:長澤まさみ、奥平大兼、夏帆、皆川猿時、仲野太賀、土村芳、荒巻全紀、大西信満、木野花、阿部サダヲ 【作品内容】 シングルマザーの三隅秋子(長澤まさみ)は、仕事もせずに男から男へ渡り歩く自堕落な生活を送っていた。 彼女しか頼れる存在がいない息子の周平(奥平大兼)は、母親の要求に応えようとするが、やがて、身内からも絶縁され、社会から孤立していく。 そんな中、17歳を迎えた周平は、凄惨な事件を引き起こしてしまう…。 【注目ポイント】 コメディから社会派までさまざまな作品に出演し、今や日本を代表する女優となった長澤まさみ。そんな彼女が、自身のイメージを大きく塗り替えた作品が、この『MOTHER マザー』だ。 本作は、2014年に起きた「少年による祖父母殺害事件」に着想を得た『誰もボクをみていない なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか』を原案とした映画作品。監督は『まほろ駅前多田便利軒』(2011)や『日日是好日』(2018)で知られる大森立嗣。キャストには、阿部サダヲ、夏帆、仲野太賀、木野花ら実力派のほか、数百人のオーディションを勝ち抜いた演技派、奥平大兼が周平役で出演している。 いわゆる「毒親」を扱った本作。母親の支配から抜け出せない周平は、行く先で保護司と出会い、フリースクールにも通うようになる。しかし、母親のせいで放浪生活に逆戻りし、窃盗に手を染めた上、最終的に祖父母を殺害してしまう。 なんとも悲惨なのは、本作のラストだろう。逮捕され、懲役12年の刑に服した周平。しかし、彼は、この期に及んで、母を想い続ける言葉を保護司に発し続けるのだ。 毒親の呪いからは生涯逃れられない―。そんな絶望が伝わってくる、なんともやるせないラストだ。 (文・村松健太郎)
村松健太郎