大スケールのルイ・ヴィトンからドリス・ヴァン・ノッテンによるラストショーまで──2025年春夏パリ・メンズコレクションをプレイバック!
2025年春夏のパリ・メンズコレクションを訪れたエディターが、今シーズンの私的ベストショーを振り返る。 【写真の記事を読む】ベスト・ルックをチェック!
LOUIS VUITTON パリ・メンズコレクションの初日である6月18日(現地時間)に、エッフェル塔付近に位置するユネスコ本部でルイ・ヴィトンの2025年春夏メンズコレクションが発表された。会場に入ると、ユネスコに加盟する様々な国の国旗のはためきが視界に入り、次にダミエ柄を模したような芝生や数多くのセレブリティたちの姿に気がついた。セレブにインタビューを行ったのち着席すると、なんと20時30分(現地時間)の定刻通りショーが開始。規模の大小を問わずほとんどのショーが30分前後遅れてスタートする中、最大のメゾンにも関わらずオンタイムで進行することに驚かされた。 「Le Monde Est À Vous(世界はあなたのもの)」と題したショーは、ブラックのベルベットスーツで開幕した。ショーが進むにつれ明るいトーンのルックが増え、終盤にはアフリカを中心とした地球柄やマルチカラーのモノグラム柄のブルゾンが登場するなど、華々しく展開してフィナーレを迎えた。また、パリでのオリンピックが迫っている今、サッカーボールのパターンが配されたルックも印象に残った。そして、ファレル・ウィリアムのプロデュースしたショーのサウンドトラックは、ポン・ヌフのオーケストラとファレルのデビューショーである2024年春夏コレクションにも参加したヴォイス・オブ・ファイアによって生演奏された。シンプルながらも技巧を凝らした数々のルックと演出のスケール感の大きさは、言うまでもないが目を見張るものがあった。 Rick Owens 同じアイテムをまとった多様な20人ほどが軍隊のように行進してくる──。リック・オウエンスのショーは、全身白の約10のルックに200人以上のモデルを起用した、異様かつ圧巻なものだった。先シーズンはメンズとウィメンズともにパリの自宅で発表を行ったが、今シーズンはお馴染みのパレ・ド・トーキョーに帰ってきた。 プレスリリースによれば、リックは今回のショーについて「昨シーズン、ハウスでの展示を行った後、出席を制限したことを申し訳なく思ったので、今回はより多くの人を歓迎したいと思いました。パリのすべてのファッションスクールに学生と教員、男女問わず、この白いサテンの愛の軍隊に参加したい人を送るよう依頼しました」と語り、「個性を表現することは素晴らしいことですが、時には団結とお互いへの依存を表現することも大切なことだと思い出すことも必要だと思います。特に、世界が経験しているピークの不寛容に直面している今......」とも述べている。インディペンデントかつ巨大なファッションデザイナーによる示唆に富んだコレクションは、孤高が故の独自性で人々を惹きつけつづける。 LOEWE 20世紀の独創的なアーティスト4人のオブジェクトが展開され、アメリカの作家で知識人であるスーザン・ソンタグからもヒントを得たという。そんな作品群と多用された羽根のヘッドピースでコンセプチュアルなムードを漂わせていた。タイトルには“ラディカルな節度”を掲げ、軽いブラックのスーツをはじめとする控えめで洗練されたピースが目立った。ベルトによってトップスとボトムスが繋がったように見えるアイテムや裾が跳ね上がり重力に逆らっているかのようなコートは、一見、品の良いベーシックなデイリーウェアだが、目を凝らすとそれぞれのアイテムの意匠の複雑さに気づく。また、ショーの数日後、千鳥格子状にフリンジを配したポロシャツの精緻な制作過程を撮影したビデオがSNSで大きな話題を呼んだ。ジョナサン・アンダーソンによる最新コレクションは、分かりやすいアートピースが登場しなくとも、その奥行きを感じさせるものだった。 KidSuper 観客同士がエントランス前で喧嘩し、ジャーナリストがスタッフに不満をこぼしている──。噂通り、ヤンチャなストリートキッズやラッパーたち(ウェストサイド・ガンやタイ・ダラー・サインも来場していたそう)が大集合しており、キッドスーパーのショー会場であるパリ18区の劇場ル・トリアノン付近は人でごった返し混迷を極めていた。 ニューヨーク・ブルックリン拠点のストリートウェアブランドであるキッドスーパーは、ウェアの着想源となった絵画が販売されるオークションや過激なジョークが飛び交うコメディショー、そして演劇形式のプレゼンテーションなど、斬新な発表形式とド派手なウェアでたびたび注目を集め、今回はシルク・ドゥ・ソレイユとコラボレーションを行った。ショーがはじまると、3階席に座っていた私の目の前に、1階ステージのモデルをマリオネットとして操る“大きな手”が現れた。そしてマリオネットたちによる34ルックのランウェイが終わると、シルク・ドゥ・ソレイユによるパフォーマンスが上演された。最後に、創設者でデザイナーのコルム・ディレインが側転をして登場し、マイクを持ち自らの挨拶で締めると大歓声が上がった。パリでのコレクションらしからぬストリートかつアヴァンギャルドなスタンスを貫く姿勢を目の当たりにすると、多彩なアーティストやブランドからラブコールが途絶えないのも納得できる。 DRIES VAN NOTEN ドリス・ヴァン・ノッテン本人が手掛ける最後のショーを幸運にも観ることができた。パリ郊外の閉鎖された工場の前に到着すると、ドリス・ヴァン・ノッテンと同じアントワープの6人に数えられるウォルター・ヴァン・ベイレンドンクとアン・ドゥムルメステールが道端で談笑していた。その時、もう間もなく、偉大なひとりのデザイナーが身を引き、ひとつの時代が終わるのだということを実感した。 6月22日の20時15分(現地時間)ごろに会場がオープンした。ドリスの過去のショー映像が中央の巨大なモニターに映し出され、観客にはシャンパンとフードが振る舞われる立食パーティが催された。21時55分ごろ、会場内の幕が開き、眩い銀色のランウェイと客席が現れ、そのおよそ15分後、ドリス・ヴァン・ノッテンによる150回目のコレクション兼129回目のショーが開幕した。ネイビーのダブルブレストコートのファーストルックをはじめ、前半のルックはダークトーンないしはモノトーンが中心。26ルック目にはランウェイと呼応するシルバーのショールカラーのスーツが登場し、中盤のサーモンピンクやライトグリーンのオーガンザのコートはショーを華やかに彩る。後半には、ドリスらしい花のモチーフが配されたグラフィカルなアイテムも披露され、終盤はシックなトーンとシルバーが目立った。 ドリスと縁の深いモデルが起用されていたり、過去のコレクションからの引用とも取れるディテールも散見されたけれど、決して総括的な内容ではなく、いつも通りの新作コレクションだった。ショーが終了すると巨大なミラーボールが現れ、そのままアフターパーティがはじまった。辺りを見渡すと、目に涙を浮かべている人も少なからずいたけれど、その誰もが幸せそうな表情に見えた。
文・近藤玲央名 写真・gorunway.com