広がる〝高校生の商品開発〟 長野県の取り組みにみる「地域連携」授業の成果
高校生が開発した商品を道の駅、土産店、新聞記事で目にする機会が増えた。地元食材を使った加工品やレトルト食品、飲食店で提供される料理など幅広い。なぜ高校生の商品開発は盛んになったのか──。農業や商業など専門高校だけでなく、普通高校でも商品化が実現している長野県の現場を取材した。 【見た目も面白い】阿智高校生開発のガレット2種 “日本一の星空”を掲げる阿智村。観光拠点施設「ACHIBASE(アチベース)」でガレットを注文すると、記者が知っているのとは見た目が全く違う2種類が出てきた。 一つはメキシコ料理のブリトーのような形で、もう一つは団子風。見た目の面白さから思わず写真を撮った。2商品とも地場産のそば粉とリンゴを使う。ガレットにしては甘めの生地にシャキシャキ感と、もちもち感がよく合っている。 開発したのは、村内にある県阿智高校地域政策コース観光エリア所属の3年生、藤本みやびさん、園原憲到さん、桐山柊宇さん、北林拓哉さん、藤井希空さんの5人。村と阿智昼神観光局のサポートで商品化し、同施設で1月から販売する。 通年で販売するため、生地で包む果物は村内産の梨や桃、ブドウ、ブルーベリー、キウイフルーツなど季節に合わせて切り替える予定だ。
若い発想を大人がアシスト
商品開発のきっかけは、村が力を入れるソバ栽培に1学年上の先輩が着目してガレットを試作したこと。5人が活動を引き継ぎ、村内にはない「歩きながら食べられるスイーツ」を開発して販売することにした。 村産業振興公社を訪問し、出荷されている果実を調査。並行して試作も重ねた。ガレットの形は5人から、ミルフィーユ型やハンバーガー型などの案が出た。食べやすさや見た目、提供までの時間を考慮して、ブリトー型と団子型に絞った。 村内在住のシェフに助言をもらい、作りやすさも研究。そば粉100%をやめて、ホットケーキミックスを加えた結果、生地は破れにくく、もちもち食感になった。 販売へ向けて5人は村に相談。村は観光拠点施設を運営する観光局を紹介した。観光局の原崇久さんは、授業で「売るには、原価と販売価格の決め方が重要だ」と説明した。 観光拠点での販売から1カ月。観光客が少ない今時期でも土・日曜日は村外の客から5、6食の注文が入る。観光拠点のため通常、村民の利用はなかったが、この商品を目当てに訪れる人もおり、地域内循環が生まれた。 藤本さんは「観光客だけでなく村民にも食べてもらい、魅力的な食材がある地域だということを分かってもらいたい」と話す。 長野県は19年から、特色のある高校づくりを進めている。その柱の一つが、地域と連携した授業の強化だ。県高校教育課によると、県内の高校では、週2時間は「地域連携(探求的な学び)」の授業がある。その中で地域の魅力や課題に気付き、商品開発に取り組む事例の報告が増えている。 県内では、特に農業や商業などの専門高校と市町村が連携協定を結び、地域食材の有効活用として商品開発や販売を展開する活動が盛んだ。一方で、阿智高校のように普通高校が商品開発をする例は少ない。 同課の今井義明・高校改革推進役は「阿智のように中山間地で小規模な高校では、大学や専門学校への進学、地域内外での就職など進路が多用化している」と強調する。「故郷を離れるにしても、故郷で働くにしても、地域について学ぶ機会の重要性は年々増している。小規模高校で阿智のような活動が広がることに期待する」と話す。
<取材後記>
観光局の原さんの「高校生は良い意味で視野が狭い。その分、細かい所まで目が届く」という言葉が印象的だった。団子風ガレットの串がスティック状の菓子なのは、食べる際にごみが出ないようにする工夫だ。 高校生の商品開発を取材して、地域の大人がどのように力を貸すかが重要だと感じた。生徒の自由な発想や気付きから生まれるアイデアを生かして商品化し、販売できる方法を考える大人の協力があってこそ、今までにない新しい発想の商品が生まれる。(岩下響)
日本農業新聞