永野「THEゴールデンコンビ」でお笑いの楽しさを知る
千鳥がMCを務めるAmazon Original新番組「最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ」でダイアン津田が相方に指名したのは永野だった。ダイアンとほとんど関わりがない永野にとって、このオファーは寝耳に水。しかしバトルに臨む中で「お笑いって楽しいんだ」という初めての感覚を覚えたという。キャリア29年の永野に新鮮な感覚をもたらした「THEゴールデンコンビ」の舞台裏とは。 【画像】永野(他9件) 取材・文 / 塚越嵩大 インタビュー撮影 / 渡会春加 ■ 津田からの指名は「まったく意識してない人に告白されたみたい」 ──番組のオファーがきたときの心境はいかがでしたか? 「きたな!」という感じで、率直にうれしかったです。「ドキュメンタル」がまさにそうですけど、Amazonのバラエティ番組って選ばれし者たちが出てるというか、出演すること自体がイケてるイメージなので。自分にとっては「羨ましい」とすら思わないような離れた存在だったので、まさか呼ばれるとは……。 ──「離れた存在」とのことですが、そういった番組に呼ばれてもおかしくないくらい評価が上がってきているという実感はありますか? 今年に入ってから、なんとなく世間からの評価が上がっている気はしてたんですが、それを一番実感したのはやっぱり「THEゴールデンコンビ」に呼ばれたことかもしれないです。今までは「ノーセンスユニークボケ王決定戦」みたいなコアなライブでの評価と、世間からの「ラッセンの人」という評価に乖離があったんです。でも、やっとそこの乖離がなくなってきたかな。今のお笑いシーンの中心地って千鳥がMCの番組だと思うんですけど、そこに出ている自分と「ノーセンス」の自分がやっと合致してきたというか。 ──ダイアン津田さんからの指名という点はいかがでしたか? すごくうれしかったし、「僕のことを評価してくれてたんだ!」という驚きもありました。まったく意識してない人に告白されたみたいな。共演した回数もそこまで多くないので逆にガチっぽい(笑)。 ──プライベートでの交流もほぼない? そうですね。仲いい人とか事務所の後輩とか指名相手の選択肢なんかいくらでもあったはずなのに、不純な動機一切なしで事務所が違う僕を呼んでくれて。ダイアンのような関西の本格派の漫才師って僕のこと面白いと思ってくれているのかな、と疑問に思っていたんです。だから今回の指名は自信に繋がりました。 ──自分たちのコンビを客観的に見てどのような印象でしたか? 津田くんと顔合わせしたときに「ほかのコンビと違って自分たちはいるだけで成立する」と話していました。僕たちには“圧倒的な何か”がある(笑)。明らかに異質だし、ほかの出場者の写真を見たときも「別枠というか、なんかほかと違うよね」「スペシャルゲストに見えない?」と言っていました。ロジカルに作戦を固めることができないので「俺たちはいることが勝ちだ」と言い聞かせていたのかもしれません。相手がロジカルに来たら、「笑いってそういうことじゃないから」みたいな態度でカウンターを食らわせるみたいな。 ■ 僕、誰よりもカッコいい顔で舞台裏にいたんですよ ──収録当日の話もお伺いできればと思います。 収録はけっこう朝早くからで、現場入りしたらすぐにスタッフさんが「セット見に来てくださいよ!」とか言ってきて。まだ眠かったので、うるせえなと思ったんですよ(笑)。「外資系が関わってるとスタッフもアッパーなんだな」って。でもいざ見たらめちゃめちゃ豪華でビックリしました。「豪華すぎない、これ!?」「こんな状況でやんの!?」みたいな。お笑いってチープな場所のほうが面白くなったりするじゃないですか。でも結果的にこの豪華なセットで大成功でしたね。 ──当日のコンディションはいかがでしたか? これ……収録中は言えなかったんですけど、実は前日に「さんまのお笑い向上委員会」で陣内(智則)さんに髪の毛を引っ張られてたんですよ。あれが夜の23時くらいで、その8時間後には「THEゴールデンコンビ」に向かってた(笑)。そのときはまだ陣内さんの気持ちもわかっていない状況(※)。答え合わせができてない不安があること、ほぼ眠れなかったことが重なって、逆にハイテンションでした。それがよかったような気もします。「先輩に髪の毛を掴まれて床に倒される」というものすごくつらい経験をした直後なので、いい意味でリラックスできました。 ※編集部注:「さんまのお笑い向上委員会」(フジテレビ系)で永野が陣内智則をイジって乱闘に。永野はすっかり脅えてしまったが、その後、陣内が自身のYouTubeチャンネル「陣内智則のネタジン」に永野を招き、本当に怒っているわけではないことを伝えている。 ──実際にバトルに挑んだご感想は? すごく頭を働かせなければいけないなと思いました。アイデアをいろいろ出した上で、場の状況を見て、まだ動かないとか。将棋みたいな感じ。周りからは動いてないように見えるけど、頭の中はすごく考えてる。次の次の手を考えて動けなくなるみたいな。とにかくすごく考えてました。 ──現場はヒリヒリしていましたか? 舞台裏でみんなが本当に一生懸命で、自分たちもみんなも余裕がないからヒリついてましたね。ホリケンさんなんてキャリアも年齢も一番上なのに、いい意味で余裕こいてないし、貪欲でまったく手を抜いてないことに痺れました。たまに「M-1」の舞台裏とかを「編集カッコつけすぎ」ってイジるんですけど、自分も参戦する側になって「あれは余裕がないからなんだ」とわかりました(笑)。「M-1の舞台裏にいる漫才、カッコつけすぎ」って言ってたけど、僕、「THEゴールデンコンビ」では誰よりもカッコいい顔で舞台裏にいたんですよ(笑)。だからイジってきた人たちに申し訳ないなと思いました。あれ、カッコつけてるんじゃなくて余裕がないだけだった。ただ千鳥のMCのおかげで、ずっと楽しい雰囲気でした。戦う系の番組って悪い意味でシリアスすぎるときがあるじゃないですか。「ストイックすぎて笑えねえよ!」みたいな。それはなかったです。あと、お笑いのトップを走っている人たちばかりという状況で「俺の立ち位置ってここなんだ」「俺はここで光れるんだ」みたいなことを再認識できました。千鳥が真ん中にいる「お笑い界の縮図体験コーナー」みたいな(笑)。 ■ 初めての「楽しい」という感覚 ──永野さんは今回の出場者の中では唯一のピン芸人です。コンビを組んだ感想はいかがですか? 初めて「お笑いって楽しいんだ」と思えました。 ──初めてですか? 今まで1回も楽しいと思えなかった? 僕、信じられないくらいお笑いを楽しんでないんですよ(笑)。ずっと戦いみたいなテンション。やたらと仲のよさをアピールしてるコンビとか見てるとぶっ飛ばしたくなるんですよ。僕は交通事故みたいな笑いの取り方しかできないので、「つらいけど戦っている」みたいなセルフマインドコントロールするしかなかったんです。前日も戦いじゃないですか。陣内さんに「猿」と言って引きずり回されて。 ──でも「THEゴールデンコンビ」では楽しいと思えた。 「え、みんなこんな楽しく仕事してるの!?」と思いました。単純にもう1人いると楽というのもあるけど、「一緒に戦ってる」という感覚が楽しかったです。逆に今までの自分を抱きしめてあげたくなりました。「孤独な中、よくがんばってたね」って。 ──津田さんと合間にどんな会話をしていましたか? ずっと褒め合ってました。「100点じゃないですか?」「この笑いがいいんですよね」みたいな。僕らは自信だけはあるけど練習はしてなかったので、「それも味だよね」ということを全面に出すことに徹してました。今、振り返ると自分に優しすぎましたね。ウケないときは「これが人間らしいよね」「芸人ってこれだよね」「全員がずっとウケすぎててもつまらないでしょ?」みたいな顔してましたから。周囲は誰もそんなこと言ってないんですけど。 ──披露するネタを決めるときは、津田さんとの間でどのようなやり取りがあったんですか? 僕がベースを考えて、そこに津田くんが肉付けする感じが多かったです。ただ、この番組をやってみて「俺、芸能人の名前出しすぎじゃないか」と気付きました。エピソードトークも芸能人の目撃情報ばかりだし、「○○のマネ」か「○○を見た」しかない。芸能人の名前を出すとみんなが「おぉっ」となるじゃないですか。それを笑いだと勘違いしてるフシはありますね(笑)。 ──でも千鳥のお二人もかなり笑ってました。 悪い癖なんですけど、誰よりも千鳥を笑わせたいみたいなところがあって。まっすぐ観客を「おー!」と思わせるものよりは、千鳥に「なんやそれ」と言われる快感。「このすごいセットで、そのキャリアで、なんでそれをやるの?」というくだらないのが好きなんですよ。「こうなっていた!」みたいな設定バラシが恥ずかしくて、それで「わー」とか感心されるともう……。なので「笑いってこういうことだから!」とくだらないネタをやったんですけど、誰も頷いてなかったです(笑)。サーヤとかを見ていて申し訳ない気持ちになりました。「サーヤは一生懸命やってるのに俺は何をしてんだろう」と一瞬思いかけたんですけど、思ったら負けなので、「俺には俺のプライドがある」という顔を作ってました。 ■ ホリケンさんにみんなが引っ張られた ──自分たちのほかに印象に残ってるコンビは? やっぱりホリケンさんと屋敷のコンビ。ホリケンさんは最初はベテランがふざけに来たように見えるかもしれないですけど、最後まで見ると単にそうじゃなかったというのがわかります。今回は全員が本気でやってたんですけど、それはホリケンさんが真剣にやってるところを見て、みんなが引っ張られた結果だと思います。あとはスリムクラブ真栄田くんのボケが好きでした。大振りというか、急にホームランを打つ感じが。「自分が一番面白いと思うことをやるので、ツボにハマったときだけ笑ってください」みたいな感じがいいですよね。 ──永野さんのキャリアの中で「THEゴールデンコンビ」に出演したことはどんな経験になりましたか? 改めて総括をお願いします。 最初も言った通り、この番組に呼ばれたことでの“認められた感”が強くて。「ラッセン」以来久々の忘れていた感覚ですね。ほとんどが大手事務所の方々の中で、横や縦の繋がりがない自分が呼ばれたことは自信になったし、錚々たるメンツの中で「自分の色」みたいなものがちゃんとあるんだと再認識できたのはうれしかったです。 ──最後の質問ですが、もし永野さんが指名する側だったら誰を相方に選びますか? ……今、パッと浮かんだのはオダウエダの植田ちゃんかな。最近「結局オダウエダが一番面白いんじゃないか?」と思っていて。冷静に考えると、日本で一番面白いのはオダウエダ(笑)。指名するなら植田ちゃんで! ■ プロフィール □ 永野(ナガノ) 1974年9月2日生まれ、宮崎県出身。1995年に活動開始。洋楽や洋画に造詣が深く、多大な影響を受けている。「孤高のカルト芸人」と呼ばれ、長きにわたってライブシーンで活躍。近年はテレビや配信のバラエティ、芸人のYouTubeへのゲスト出演などでたびたび注目を集める。YouTubeチャンネル「永野ショートムービーCHANNEL」では多数のオリジナルコントを公開している。グレープカンパニー所属。