津波、田畑も奪った 再開の見通し立たず 能登地震
ハウスは骨組みしか残らず
石川県の能登半島地震の津波は、沿岸部の農業にも大きな爪痕を残した。広範囲にわたってビニールハウスや農機に加え、田畑そのものが流出。海水に漬かった影響で塩害も懸念される。自宅だけでなく、農業経営の基盤にも打撃を受け、再開の見通しも立たず、頭に離農や移住がよぎる農家も多い。 半島北東部に位置し、3集落が波にのまれた能登町の白丸地区。トマトなどを栽培していたハウスが建っていた場所は今、がれきだけが散らばる。 ハウスの持ち主だった野菜農家の浜高康雄さん(65)は「この地で農業を再開することが目標。ただ、住み続けることも現実的かどうか難しい」と心境を吐露する。 地震当日は高台に避難。「遠くから津波の音だけが聞こえていた」と振り返る。海水が引いてから自宅に戻ると、タマネギを植えた畑は土壌が流出し、どこがあぜかも分からない状態。2棟あったハウスも1棟の骨組みしか残っていなかった。 自宅も被災し、避難所暮らしが続く浜高さん。春はハウスでトマトやキュウリの苗を作り、出荷するはずだった。営農再開の見通しは立っていない。
トラクターや軽トラ流される
同地区でスイカなどを作る坂元信夫さん(67)も自宅だけでなくトラクターや耕運機、軽トラックが流され破損した。 孫たちと車で逃げようと、車庫に入ったところで波にのまれた。必死に孫たちの体を手繰り寄せ、九死に一生を得た。畑は高台にあり被害は受けなかった。「せめて農地が無事だから、孫に食べさせるスイカを今年も作りたい」と願う。地域で使える農機を集めて共同利用するなどの対応を検討する。 「今シーズンの生産は難しい」と話すのは、珠洲市で干し芋を作る前濱利啓さん(33)。加工場に津波が押し寄せ、乾燥機や出荷待ちだった干し芋が漬かった。1ヘクタールで年間10トンのサツマイモを生産。干し芋に加工、販売してきた。今は、貯蔵庫にあって津波を免れたサツマイモの出荷を検討している。 ◇ 国交省によると、津波の浸水範囲は珠洲市128ヘクタール、能登町63ヘクタール、志賀町2ヘクタールの合計193ヘクタールに上る。各市町によると、農地の被害状況は調査中で、規模は把握できていない。(岩下響、島津爽穂)
日本農業新聞