映画『フェラーリ』主演アダム・ドライバー──「挫折や失敗はエンツォをより人間的な人物にした」
フェラーリの創業者であるエンツォ・フェラーリを描いた映画『フェラーリ』が公開される。主演を務めたアダム・ドライバーに自身のフィルモグラフィーやエンツォという人物について話を訊いた。 【写真を見る】1957年当時のフェラーリを再現し撮影したレースシーン
名監督を虜にさせる俳優、アダム・ドライバー
『スター・ウォーズ』シリーズのシークエル・トリロジーにおける悪役カイロ・レンというハリウッド大作でのカリスマティックなキャラクターで知られる一方、アダム・ドライバーは淡々と名匠たちとの仕事を手中に収めている。そのフィルモグラフィーには、マーティン・スコセッシ(『沈黙』)、スパイク・リー(『ブラック・クランズマン』)、ノア・バームバック(『マリッジ・ストーリー』)、コーエン兄弟(『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』)、スティーブン・ソダバーグ(『ローガン・ラッキー』)、テリー・ギリアム(『テリー・ギリアムのドンキホーテ』)、ジム・ジャームッシュ(『パターソン』)、リドリー・スコット(『ハウス・オブ・グッチ』)、レオス・カラックス(『アネット』)、そして今年のカンヌ国際映画祭でワールドプレミアされた『メガロポリス』のフランシス・フォード・コッポラという大御所の名も加わった。そんなアダム・ドライバーが、出演を切望していた監督がマイケル・マンだ。 ──これまで素晴らしい映画監督たちと仕事をされていますね。 自分自身が信じられないほどラッキーだと感じます。マイケル本人にはあえて言わないけど、僕が子供の頃に見た映画のフィルムメーカーたちは、僕を本当にワクワクさせてくれたんです。(マン監督の)『インサイダー』は、すべてが本当にユニークで、その作品の一部になりたいと思わせてくれる映画でした。俳優の演技がとてもいいだけじゃなく、すべての要素が揃っている。バラエティ豊かな芸術的要素をひとつに集めたような映画でした。映画的であるとともに、誰でも理解できるような、キャラクター主導の物語なんです。 『インサイダー』は、タバコ産業の不正の内部告発者を主人公とした実話ベースの社会派ドラマだが、アダム・ドライバーが主演する『フェラーリ』もキャラクター主導の伝記映画である。跳ね馬(カヴァリーノ・ランパンテ)のエンブレムで知られる世界屈指のイタリアのスポーツカーメーカー、フェラーリの創業者であるエンツォ・フェラーリ。イタリア中部エミリア=ロマーニャ地方のモデナの裕福な家に生まれ、レーシングドライバーを経てフェラーリ社を設立、またたく間にレースカー業界にその名を轟かせたカリスマティックな実業家である。 ■エンツォ・フェラーリ、激動の4ヶ月 映画は、エンツォ・フェラーリの90年の人生の中の、1957年の4ヶ月間に焦点を当てている。前年に最愛のひとり息子を難病・筋ジストロフィーで亡くし、妻ラウラとの仲は冷え切っていた。愛人リナ・ラウディからは12歳になる息子ピエロの認知を迫られ、さらに、長年隠してきた二重生活はラウラの知るところとなった。会社は倒産の危機に陥って買収話が持ち上がる。極めつけは自動車レース「ミッレミリア」での大事故だ。公道を1000マイル=1600km走り抜く伝説のカー・レース「ミッレミリア」は、現在はクラシックカーレースとして実施されているが、当時は各社が技術と威信をかけてスピードを競う大会だった。3月のテスト走行中に気鋭のドライバー、エウジェニオ・カステロッティを事故死で失ったフェラーリは、5月のミッレミリアに決死の覚悟で望んだ。が、悲劇が起きてしまう。 ──エンツォ・フェラーリに共感する部分はありましたか? 挫折や失敗した時、人がそれにどう反応するかということに興味があります。なぜなら、失敗が人をより人間的にすると思うからです。 成功ばかりを描いた映画だったら、見てもあまり面白くないかもしれないですしね。でも、私は常に感情的にならない人を尊敬しているんです。なぜなら、私は人生において運命論者だから。白鳥のように表面は冷静で、水面下で猛烈に必至で漕いでいるような彼の資質は、私が憧れるものであり、私にはないものです。それに、レースカー会社の経営責任者が、潰れそうになっている会社の経営や、愛人との間の息子との関係など、さまざま問題を同時に管理し、なおかつ、自分自身を奮い立たせようとしている。それだけでも立派だと思うんです。 エンツォは、アダム・ドライバーの実年齢よりもかなり上、しかも実在の人物だ。綿密なリサーチを重ね、役作りを徹底したという。 ──エンツォがかつてレーシングカーのドライバーだったというバックグラウンドは、役作りで重要な要素となったそうですね。 エンツォを演じる上では、それは最も重要な要素のひとつでしたね。なので、準備段階では、フェラーリをかなり走らせましたよ。モデナやカリフォルニアで今のフェラーリを走らせたことはとても役に立ったと思います。運転してみないとわからないことがあると思います。“ああ、転倒したらお終いだ!”という感覚とか。車はシャシーだけでまだ(上に)ボディが装着されていなかったりしたので、みんなとても緊張していました。私が思うに、エンツォはとても前向きで内面的な人だったと思います。マイケルも言っているように、彼に一番好きなフェラーリは何かって聞いたら、迷わず“次に作るものだ!”と言うでしょうね。 現在の愛車はポルシェ993。美しい車体のラインが気に入っているという。 車には常に興味があったけれど、若いころはとても買えませんでした。でも今は、何台か車を持っています。レースカーのドライバーのメンタリティも、以前なら想像できなかったけれど、今は理解できるようになってきたと思います。どれほど危険なことなのか、どれほど長時間の集中が必要なのか、どれほど肉体的に負担がかかることなのか、周囲にいる人々に何をもたらすのか、どれだけのクルーがいるのか。必要とされる技術、哲学的ともいえるエンジンという“動く時計”についても、以前なら私は感じ取ることができなかったと思います。演技に例えるなら、100の小さなパーツがあり、そのすべてがシンクロしなければ何もかもうまくいかないでしょう。反対にそれが機能すれば、芸術となりうるのだと思います。 『フェラーリ』 7月5日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー 配給:キノフィルムズ
取材と文・立田敦子、編集・遠藤加奈(GQ)