【映画ライターの年末映画案内】役所広司が“演じている”ように見えない『PERFECT DAYS』は余韻がいつまでも続く|Mart
長々と説明しましたが、このように平山の日常をカメラが淡々と丁寧に追い、スクリーンの中で静かに時間は流れていきます。仕事の日、休日、それぞれのルーティンがあり、画面からは平山が規則正しく生活することを楽しんでいる様子が伝わってきます。 ただ、誰もが生きていてまったく同じ日というのはないように、平山が過ごす毎日も同じようでいて同じではありません。大事件というほどではなくても、思いがけない出来事だってあります。 ささやかな変化やいつも会う人との交流があり、つつましく暮らす平山の様子は本当に幸せそうで、美しくてかっこいい。トイレが美しくなっていく様子も相まって、心が洗われるような気分になります。
【見どころ②】完全に「平山」として作品の中で生きる役所広司がすごい
主演の役所広司さんは、この作品で第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞しました。これは日本人としては柳楽優弥さん以来19年ぶり2人目の快挙。授賞式で「やっと柳楽くんに追いついたかな」とスピーチしたのは有名です。 『PERFECT DAYS』を観ていると、役所さんが平山を演じているように見えなくなってきて、平山そのものとなってありのままの姿でカメラの前で生活しているかのようでした。
ヴィム・ヴェンダース監督 ©Peter Lindbergh2015 実際に撮影中、ヴィム・ヴェンダース監督は撮影が始まる度に「平山に会いに行こう」と言っていたそうですし、ドキュメンタリーのように撮ることを目標としていたそうです(プレス資料より)。かなり高度で難しいことを自然体でやってのける役所広司さんのすごさを、改めて思い知る作品です。
【みどころ③】観終わってからもじわじわと余韻が続く
物語は平山の姪が登場してから少し動き出しますが、映画の中で彼の過去はぼんやりと想像できる程度ではっきりと明かされません。なぜトイレ清掃員をしているのか、今のような暮らしをしているのかもわからないままです。 でもラストシーンの平山の顔を見ると、彼は続けられる限りこういう日々を過ごしたいんだな。誇りを持って仕事をし、つつましく生きることが幸せなんだな、と想像できます。いつまで続くかわからないし、自分が知らない世界もあるだろうけれど、自分はこの世界を、毎日を生きていくんだ、という覚悟を感じてじんわり感動が広がりました。 試写会で観終わって2カ月以上経った今でも、この映画のことに触れるとじわじわと余韻が続いているように感じますし、そのくらい心に残る作品でした。ぜひ劇場で観て、それぞれの余韻を味わってください。 取材・文/富田夏子
作品情報
『PERFECT DAYS』 TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中 監督:ヴィム・ヴェンダース 脚本:ヴィム・ヴェンダース、 高崎卓馬 製作:柳井康治 出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和 製作:MASTER MIND 配給:ビターズ・エンド ⓒ 2023 MASTER MIND Ltd.