カナダの片田舎で「中国式カフェ」を営んでいた“ある老人”の死…訃報を機に著者が語る中華料理店ドキュメンタリーの“原点”
変わらない町
私は、ノイジー・ジムに、次に来るときもまた主役で撮らせてほしいと約束していた。その3年後の2000年、クォイを引き連れてアウトルックを再訪した。中華料理店シリーズのドキュメンタリーを撮影するためだった。 撮影旅行が終わって、編集者から撮れ高(訳注:作品に使える映像素材)が足りないと指摘されてしまった。初心者ゆえのミス。初の撮影はこんな調子だった。 取材の何年も前から、ジムは、近況報告やらご機嫌伺いやらでよく電話をかけてきたものだ。 実は私も1ヵ月前にジムに電話したところだった。入院中で病状が重いと家族から聞かされていたからだ。再訪しても面会できるような状況ではなさそうだった。 そして今日、葬儀の1時間ほど前にようやく町に到着した。町の様子は見覚えがある。2年前にクォイと訪れたときと変わらない静かな風景が広がっていた。 まもなく昼。メインストリートは人っ子一人いない。ジムのカフェに行ってみると、窓には葬儀のため休みとのお知らせが貼ってあった。恐らくは40年前に開店してから初めての休業ではないか。
関 卓中(映像作家)/斎藤 栄一郎(翻訳家・ジャーナリスト)