いまなお警戒、中国のパクリ自動車事情と日本の自動車メーカーの攻防
中国で知財業務を統括していた別所氏が、かつて中国にあるオートバイの研究所を訪問した際、驚いたことがあったという。「研究所の所長が自慢気にHONDA STREAMの図面集を見せたのです」。研究所の図書館に日本メーカーのオートバイの図面集があったというのだ。 「中国で生産許認可をもらう際には図面の提出が必要でしたから、証拠は何もありませんが、その図面がコピーされて国の研究機関の図書館に集められていたのではないでしょうか」と推測する。中国メーカーは国の研究機関から日本の車やバイクの図面を購入してコピー車を生産していたのではないか、というのだ。 ホンダは商標権、意匠権、特許権等を侵害する不正商品に対しては司法の場で徹底的に争ってきたということだが、中国における訴訟では裁判官が突然、変更になったり、法廷記録を改ざんしようとしているのではないかと考えられるシーンがあったり、ホンダとの取引を望んでいる裁判官の友人に便宜を図るよう裁判官から求められるなど日本の司法では考えられないことが少なからずあったようだ。 「意匠について似てる、似ていないを論理的に説明することは難しい。新興国の裁判官はそういったものを避ける傾向にあり、和解をすすめて結論を出してくれない傾向がある。中国も、今は結構よくなっていますが、かつては非常に難しかった」と別所氏は話す。
かつて日本車のコピーばかりと言われてきた中国車だが、「最近はヨーロッパのデザイナーに委託するケースが多く、中国政府もコピーを不正と見なして対策をとっていることから大手メーカーの車であからさまなコピー車を見かけることはなくなりました」と業界事情に詳しい中国・アジア自動車産業経営戦略研究所の中村研二代表は話す。 また、ハードからソフトに付加価値がシフトする中で自動車業界を取り巻く環境も大きく変化している。 「我々はグーグルやアップルとは違う。彼らが得意なソフトの方にお客様が求める価値がシフトしている。そうした中で知財はどのような役に立つのか」と別所氏。 技術等を標準化しホンダの技術と製品を積極的に普及させるオープン戦略と、守るべき技術領域を決めて流出を防ぐクローズ戦略を同時並行で取り組みを図っていくようだ。 一方で改善されたように見える中国企業のコピーについて別所氏は「研究開発をしないで手っ取り早く儲けようというインセンティブが今も強く働いていています。また、法律をかいくぐって上手くやった人を賞賛する風潮が依然としてあるので、今後も劇的に改善するとは思っていません」と話し、なお警戒感をのぞかせている。