尾崎繁美さんが33回忌を終えて振り返る、夫・尾崎豊が天国へ逝ってからの32年
今も語られる圧倒的な作品力と存在感
尾崎豊特有の青臭さとは、その歌詞から若さの尊さや情熱の眩しさのような熱量が溢れだしているように感じる一方で、芽吹きはじめたばかりの小さな命のように、真っ直ぐと健気な輝きを放っているかのようです。一見、若者ならではの世界観にも見える歌詞の中に、年相応とは思えないような「成熟した言葉」が散りばめられていて、メロディーや歌唱力、ステージパフォーマンスなども相まって、秀逸な表現力で尾崎豊の世界を創り出しているなと感じます。 例えば、『I LOVE YOU』では、「きしむベッドの上でやさしさ持ちより」という言葉で情景を想像させたり、『卒業』では、「あと何度自分自身卒業すれば本当の自分に辿り着けるだろう」と、卒業という言葉の意味まで考えさせられる独自の表現で、”歌うドラマ”のように共感できたり、自分で物語を描けたりする。今の時代のような”説明しすぎる描写"や"抽象的すぎる歌詞"とは一線を画し、等身大の在り方で手を差し伸べてくれる歌は他に類をみません。 きっと豊より少し年上の人には青臭いと感じたはずです。思春期と呼ばれる頃に誰もが感じた若さゆえの苛立ちや疾走感、青春真っ只中の躍動感、まだ見たことのない未来への期待感など、心のどこかに隠している想いや言葉にできないモヤモヤした気持ちを、豊は見事に描写し歌詞に凝縮させていた。他の何者とも比べようのない、圧倒的な作品力と存在感が多くの人の魂を揺さぶり、今も色褪せることなく愛される理由なのだと思います。 実際に豊と同じように早熟だった私でも、当時、愛を平然と口にできるキザなところはくすぐったく感じて、恥部を知られるような恥ずかしさがありましたが、それでも彼の作品に触れていくたびに驚きや感動が芽生え、射抜かれていきました。今思えば、尾崎豊が織りなす作品は、私の内側に深い響きを残し、ずっと探していた言葉を見つけたような本質に刺さる歌詞だったからです。 青臭さとは若さの象徴であり、若さが芽吹く青春の匂いなのかなと思います。