『フェルマーの料理』海と岳がたどり着いた“真理の扉”の答え 孫六が与えた最後のチャンス
ついに終わってしまう。『フェルマーの料理』(TBS系)第10話を観る前に、多くの海様のファンがそう思ったことだろう。我儘な一面も、料理への誠実さも垣間見せながら、毎週視聴者を振り回してきた海(志尊淳)と岳(高橋文哉)。そんな2人の“真理の扉”へのチャレンジが、いよいよ始まった。 【写真】厨房に立つ海(志尊淳)と岳(高橋文哉) 岳の力を借りて、料理の世界に戻ることを決意した海。しかし、海にとっての師匠であり神である渋谷(仲村トオル)は「彼によって味覚が補われたとしても、元のお前には戻れない。凡庸な料理人の1人になるだけだ」とそれを認めようとしない。渋谷は2人の料理を食べに翌日「K」へ行くと宣言し、それが真理の扉を開くものでなければ、2度と料理はするなと海に約束をさせる。その約束を飲み込んだものの、海は「あの人は、俺の料理に美味しいなんて言わない」と浮かない表情を浮かべる。 一方で、そんな海を岳は前向きに励ます。彼は猪のジビエを食べて、自分の料理と対極にあるものの、“素材の旨みを活かす”という点であるヒントを掴んだ。そのレシピの根底にあったのは、岳自身の父との記憶だった。これまでも、岳の父といえば息子を精一杯応援する、不器用ながらも温かな愛情が描かれてきた。だからこそ、最後の勝負どころで岳を助けたのが父親との記憶、というのも視聴者にとってはアツい展開だったのではないか。 急いで渋谷に挑むための準備を始めようとする岳と海だったが、そこに蘭菜(小芝風花)が現れた。「岳の尻拭いは、全て寧々(宮澤エマ)がしてる」「ここで岳に料理はさせない」という蘭菜の言い分は、厳しいようだが最もな言葉でもある。また蘭菜は、いずれ「K」を自分の店にするために資金を集めているという。「K」が大切な場所だったからこそ、蘭菜にとって前回までの岳の行為はどうしても許せなかったのだろう。そんな彼女に、海は今の自分の料理を食べて欲しいという「最後の願い事」をする。 これまでの自分の行いを恥じた岳は、「K」のメンバーの元へ足を運ぶ。しかし布袋(細田善彦)に謝罪するも「Kは潰れた、終わったことなんだ。悪いが、お前と話すことはもうない。帰ってくれ」と冷たくあしらわれてしまう岳。さらにはライバルとして友情を育んできた孫六(板垣李光人)にまで「謝罪は受け入れるけど、許そうとは思わない」と言われてしまう。 「お前のこと信じても、また裏切られるだけだからさ」という孫六の言葉は、今の仲間達の心境そのものだったに違いない。 「渋谷先生、ようこそいらっしゃいました」 そしていよいよ、運命の日がやってくる。作ったのは4品のコース料理。「今日のコース料理は、一皿残らず真理の扉を開くようなものを作ってくれるんだよな?」「もし一皿でもそうでないなら、もう2度と料理はするな」と渋谷の厳しい言葉が「K」に響き渡る。しかし、残酷なことにこのタイミングで海の体調に異変が訪れる。苦しそうに倒れ込みながらも、「一緒に、楽しく料理がやりたいんだろ? 俺にもやらせろ」と厨房に立とうとする海の姿には、観ているこちらが苦しくなった。 それでも、レストラン「K」は終わらない。「私たちがいるべき場所は、客席じゃなくて、ここ。私たちも一緒にやる」と言い切ったのは、まさかの蘭菜だった。その裏には「孫(まご)の連絡があったから」という理由が明らかになるのだが、この“孫六が岳のために頭を下げた”というのも、最終回らしい感動的なポイントである。今でこそ、岳と孫六の友情は視聴者にとっても周知の事実だが、岳の皿洗い時代に最も彼を嫌っていたのは孫六と言っても過言ではない。そんな孫六が、絆で結ばれた仲間として岳に最後のチャンスを与えたのは感慨深いものがある。 渋谷に出されたコース料理は、厨房のシェフたちそれぞれの特技を活かした料理だった。しかし、蘭菜や孫六をはじめとする、みんなのアイデアが詰まった料理を口にしても、渋谷は何も言わない。そんなコースのメインを飾ったのが、岳の「ハンバーグ」だ。岳は「このハンバーグは父親との思い出なんです。あるとき、低音でじっくり焼くつもりが、焦がして……」とレシピの着想を話しだす。このハンバーグの最大のポイントは、よくこねること。仕上げのアロゼとピューレは布袋のアイデアから着想を得ていると知った渋谷は「どうして他人のアイデアを使った?」と首を捻る。 そしてここで海から、『フェルマーの料理』最大の名言とも言える“真理の扉”の答えが出る。 「1人でたどり着けないところに、みんなと一緒なら辿り着けるかもしれないと気がついたとき、真理の扉が開いた気がしました」「渋谷先生に食べてもらったのは、この店の全員のアイデアと想いが詰まった料理です」 数学者・フェルマーのような孤高の天才のみが、真理の扉を開けられるわけではない。海にそのヒントを与えたのは紛れもなく、岳と「K」のメンバーだった。思えば岳は今まで、料理の数式はもちろんだが、食べる人の思い出や嗜好に沿った、相手目線の“究極の料理”を提供してきたように思う。今回はずっと孤高に料理と向き合ってきた、渋谷に向けてフルコースを振る舞ったわけだが、図らずとも「ハンバーグ」もまた、渋谷にとっては海との“父子の絆”を感じさせる一品だったわけだ。 自ら厨房に立ち、海にとっての“ハンバーグ”を作った渋谷は「限界なんていうものは、この世に存在しない。料理にも限界はないし、真理なんていうものも存在しない。お前たちが作ったハンバーグはよかった」と言葉をこぼす。そんな渋谷の想いに答えるように「俺に人生くれて、ありがとうございました」と涙を浮かべた志尊の演技には、渋谷の息子であり、料理人でもある“朝倉海”の全てが詰まっているように見えた。まさにフィナーレに素晴らしい、志尊なりの「海という人物が抱えてきたもの」への解釈が託された渾身の演技だったのではないか。 その後、それぞれの道へ歩きだすシェフたち。最後のモノローグでは、海と岳がとある店の厨房で料理をしている様子が描かれていた。海の病気の件がその後どうなったのかは、物語の顛末からはっきりとはわからない。それでも、岳と海はこの先も次の扉を探して、料理の道を歩き続けていくのだろう。“2人が見つけた完璧な答え”を胸に、まだ見ぬ料理へと胸を躍らせながら。病魔さえも、2人の挑戦を止めることはできない。
すなくじら