鞘師里保、1stフルアルバム『Symbolized』リリース。彼女が見つけた私らしさとは
最近は頑固さも出てきて。それが自由に生きていくことに繋がっていく
ーーどうしてそういう不安が芽生えるんだと思いますか? 「つねにいろんなことに挑戦していたいなって思っているんですけど、ある日、全部が破綻したらどうしようって思うことがあって」 ーー音楽だけでなくお芝居とかにも積極的ですからね。ストイックだからこそ心配になるんでしょうか? 何事においても完璧を求めてしまうというか。 「自分では全然ストイックじゃないなって思うんですけど……ただ白黒ハッキリつけたがるんですよね、何事も。最近はその中間というか、グレーの選択肢を選べるようになってきたんですけど」 ーーどんな時、それを実感しましたか? 「私、締め切りとか守るのが得意じゃないんですよ(苦笑)。仕事に限らず、人の連絡もすぐ溜め込んじゃって。自分の中では返事を2日返せなかったらアウトだったんですけど、最近は2日経ったとしても、まだ間に合うんじゃないかなって思えるようになりました」 ーー連絡の内容によりますけど、2日なら許容範囲じゃないですかね。 「そうですよね。でも前は〈あ、2日経って返せなかった。じゃあ、きっと私なら1年かかっても返せないんだろうな〉って考えるくらいで」 ーーそれは白黒ハッキリしすぎというか、極端(笑)。 「あははは。最近は2日で返せなかったからって諦めるのはやめました(笑)」 ーーそもそもどうして返事が遅くなるんでしょうね。 「どんなふうに返そうか考えすぎるんですよね。仕事のこともなんでも、1回置いて考えるのが癖になってて」 ーーああ、じっくり考えるがゆえにってことですね。 「そうなんです。自分の気持ちを伝える上で、他の人よりも言葉を選ぶのにすごく時間がかかってしまうんです。でも返事に悩んでるなら、その途中段階でもいいから自分の気持ちを出すことが大事なんだなと思えるようになりました」 ーーなるほど。他にこの3年間での変化ってありますか? 「曲とかライヴの魅せ方を考える時、選択肢の幅が広がりました。去年のツアーをしていた時とか、わりと最近まで〈自分は絶対に踊ってなきゃいけない〉と思ってたんです。歌だけで何かを表現することに自信がなかったんですけど、思いきってビルボードのライヴに挑戦したらファンの方からも好評で。あのライヴは全然踊らないんですけどね」 ーー歌だって鞘師さんの武器ですよ。バンドセットで唄うからこそ、より鞘師さんの歌唱力が際立っててすごく良かったです。あれはもう毎年やっていただきたいです。 「ありがとうございます! ビルボードでライヴをやると、普段ならがっつりダンスを踊る曲がアコースティック調にアレンジされるんですけど、ファンの方からは〈それも面白い〉って声があって。ファンの方たちが寛容っていうのもあるんですけど、〈これはやってもいいんだな〉って思えることが増えました。そういえば、この間ラジオでマツコさん(マツコ・デラックス)と対談させてもらって」 ーーマツコさんは、鞘師さんがグループで活動し始めた頃から応援しているんですよね。 「はい。ありがたいことに。その時も『あなたはもっと今のうちになんでもやっちゃいなさい』『かませばいいのよ!』って助言をいただいて、興味があることはもっと挑戦していきたいなって思いました。これまでの人生は〈みんながこう思うから私はこれを選ぶ〉ってことも多かったんですけど、最近は〈いろんな意見もあると思うけど、私はこれを選びたい〉って頑固さも出てきて。ゆくゆくは、これが私らしさとか自由に生きていくことに繋がっていくのかなって思ってます」 ーー鞘師さんらしさもでしょうし、表現の幅に繋がっていますよね。今回のアルバムでもそれが実感できます。最近では松隈ケンタさんだったり、タッグを組む方もさまざまで。あと、まだライヴでも披露されていない「paradise」という新曲について触れておきたくて。 「はい」 ーーこの曲の歌詞はすごく等身大の言葉が並んでいますよね。〈家に帰ればソファーにダイブ〉とか、鞘師さんの生活の何気ないワンシーンが絶妙に取り入れられているんじゃないかなと。 「そうですね。歌詞はトップライナーのyaccoさんと一緒に書いたものなんですけど、それがすごく勉強になったんです。私の場合、歌詞を書く時は表現したいこととリンクするような言葉だけを探しがちだったんです。理想的な表現に目がけて走っていく感じというか。でもyaccoさんはその途中にある言葉もうまく取り入れる方で。表現が難しいんですけど……道端に咲いてる花にも目を向けるような方なんですよ。〈ソファーにダイブ〉ってまさに私の日常で、自分一人だったらきっと歌詞に取り入れていなかったと思います」 ーー日常の何気ない瞬間を歌詞にしているからか、初期に比べて肩の荷を下ろしている感じがいいなと思いました。 「私の変化がわかりやすく出ちゃってるのが恥ずかしいんですけど(笑)」 ーーいや、それがいいんです。たぶんファンの方たちも同じ意見じゃないかと。 「あははは。そうだといいなぁ」 ーーあとこの3年間でいろんな経験をしてきたと思うんですけど、「paradise」で〈ここが今の私のBest〉って唄いきれるのがすごくいいなと思って。3年前に想像していたよりも、この3年間は鞘師さんにとっていいものでしたか? 「はい!」 ーー笑顔で即答されると私も嬉しいです。 「えへへへ。ありがとうございます」
宇佐美裕世(音楽と人)