イランが製造停止「高濃縮ウラン」って何?
イランの核開発問題など、しばしばニュースのキーワードにもなる「高濃縮ウラン」。なんとなく危ない核物質とは理解していても、さて、どんな物質なのでしょうか。
ウラン235の濃度を20%に高めたもの
ウランは鉱山で採掘される鉱石です。天然のウラン鉱石には、核分裂反応を起こしやすい「ウラン235」と、核分裂しにくい「ウラン238」が含まれています。天然ウランでの比率は、ウラン238が99.3%。ウラン235はわずか0.7%です。 高濃縮ウランとは、ウラン235の比率を20%以上に高めたもののこと。核兵器に使われるのはウラン235の比率が70~90%以上という純度の高い高濃縮ウランですが、基本的な製造工程は低濃度の濃縮ウランと同じなので、ウラン濃縮は国際的な規制や監視の対象となっています。
さらに比率を高めると武器転用の恐れも
イランが始めた高濃縮ウラン製造に対しては、アメリカのクリントン国務長官(当時)が「武器に転用可能な高濃縮ウラン製造能力をもつための大きな一歩」と懸念を表明。欧米諸国が制裁措置を課していましたが、今年1月、イランが高濃縮ウランの製造を停止を履行して、欧米が制裁措置を一部解除したというニュースが報じられました。
原発では3~5%の低濃縮ウラン活用
日本の原子力発電所のほとんどを占める軽水炉の燃料には、ウラン235の比率を3~5%に濃縮した低濃縮ウランが使われます。日本の原発で使われる濃縮ウランの多くはアメリカやフランスなどから輸入していますが、1992年には日本初となる商業用ウラン濃縮工場が青森県六ヶ所村に建設されて操業を開始しています。 ウラン濃縮にはいくつかの方法があり、日本やヨーロッパ、ロシアなどでは「遠心分離法」が。また、アメリカやフランスなどでは「ガス拡散法」と呼ばれる方法が実用化されています。ほかにも「レーザー法(原子法)」「レーザー法(分子法)」などの研究開発が進められています。 いずれにしてもウラン濃縮には高度な技術力と、大きなエネルギーが必要です。六ヶ所村のウラン濃縮工場で採用している「遠心分離法」は「ガス拡散法」に比べて消費電力が少なく工場をコンパクトにできる特長があります。
ウラン濃縮で劣化ウランも生成
ちなみに、ウランを濃縮すると天然ウランよりもウラン235の割合(0.7%)が少ない劣化ウラン(減損ウラン)が生成されます。本来は核廃棄物。ところが、鉄や鉛よりも比重が大きい性質を利用して「劣化ウラン弾」などの兵器にも転用されています。劣化ウラン弾はウランの核分裂反応を利用したものではありませんが、残留放射能などによる被ばくの問題が懸念されています。 (寄本好則/三軒茶屋ファクトリー)