『厨房のありす』永瀬廉が生み出す優しい世界 “甘く心地よく響く声”の癒し
ほかの人とは違う特徴を持ち、生きづらさを抱えているが驚くほどおいしくて優しいご飯を作るありす(門脇麦)と彼女を取り巻く人たちのハートフルな毎日を描いた『厨房のありす』(日本テレビ系)。この中でちょっと無愛想だが温かくて優しい好青年・倖生を永瀬廉が好演している。 【写真】倒れた倖生(永瀬廉)に驚くありす(門脇麦) 所属しているグループのKing & Princeやバラエティでの永瀬は、精悍な顔立ちと喋り出せば出てくるコテコテめの関西弁で、一見するとクールで、ともすれば少し怖い印象を抱きがちだ。本作の第4話でも倖生は女性陣に「不審者っぽい」と言われたり、過去には父が犯罪者という偏見もあって職場で盗みを働いたのではないかと疑われている。これは永瀬の“見た感じ”をよく表しているといえる。 このような外見で、たとえば相手を睨みつけるようなことをすればバッチリ決まるだろう。だからもちろんかっこいいキャラクターもしっかり演じられる永瀬だが、意外にも物静かで心優しい倖生がハマり役となっている。どうして優しく見えるのだろう。その大きな要因となっているものに“甘く心地よく響く声”を挙げたい。 その魅力は怒る声にこそ発揮されていた。第4話で蒔子(木村多江)についに会うことができ、自分の母親・未知子(国仲涼子)について多くを知ることができたありす。だが、突然やってきた道隆(北大路欣也)に追い返されそうになってしまう。ありすに「こんな役立たずがうちの人間であるはずがないだろ」と心ない言葉を投げつける道隆に反論したのは倖生だった。「ありすがどんな人間なのか知ってるんですか?」「この人は誰よりも純粋で、真っ直ぐで人のことを信じることが出来る」そう語る声は、怒っているのに柔らかい不思議なバランスで、目の前にいる道隆に怒りを向ける強さがありながら、ありすを怖がらせることなく、むしろ思いやる優しさを含んでいた。そしてその口から出た言葉は倖生もまたありすと同じく純粋で真っ直ぐであることを物語っていた。 時折見せる幼い行動もまた、倖生を魅力的にみせている。倖生がありすと付き合うことになったという噂がありすの父である心護(大森南朋)の耳にまで届き、心護はひどく動揺する。倖生も慌てるが、彼らのオロオロした様子を一切気にせず、ありすは「ごめんなさい!」と倖生に“お断り”の返事をした。はっきりと告白もしていないのに、スパッとバッサリ振られてしまった倖生は、その事を地味に引きずり「ありすのお勝手」での接客も投げやりになってしまっていた。ありすにはそういうところがあるところは分かっていても不機嫌になってしまう倖生が不憫だが、かわいくも見えた。 恋愛的な意味を含んでいるかどうかに寄らず「私も誰かを好きになって、幸せな気持ちにしたいです」というありすに「俺も、そうしたいと思ってる」と返した倖生。ありすの周りの優しい世界は、倖生によってさらに優しくなっていく。回を追うごとに、その眼差しが、声があたたかくなっていく永瀬の演技にこれからも癒されていきたい。
久保田ひかる