なぜ日本に「セキュリティ・クリアランス制度」が必要なのか 専門家が解説
セキュリティ・クリアランス創設法案については野党からも賛成意見が出る可能性が高い
新行)セキュリティ・クリアランス創設法案は今回の通常国会に提出される予定ですが、いままで難しかった背景には何があるのでしょうか? 井形)やはり人々のプライバシーの問題が最も大きいと思います。ただし、この法案は政府が出したことになってはいますが、おそらく野党からも賛成が出るのではないでしょうか。「保守かリベラルか」で言うと、リベラルの人たちが反対しそうな雰囲気はありますが、1年半前には「経済安全保障推進法」という包括的な法律が通りました。このときに附帯決議として、野党がコメントを付けているのです。それを見ると、「経済安全保障推進法には重要なものが足りていない。セキュリティ・クリアランス制度が入っていないのが問題だ」と表明しているのです。 新行)そうなのですね。 井形)そうなると、法案をそのまま「これでいい」と言うかどうかはわからないにせよ、基本的には自民党も立民も保守もリベラルも、「このような制度は最低限必要だ」というところに関して、共通の理解があるはずです。その意味では、「何かしらの法案は2024年中に通るのではないか」と言っていいと思います。
日本のクリアランス制度に穴があれば国際的な情報共有は進まない
新行)「何かしら」とおっしゃいましたが、「とりあえず」と見切り発車的に進めてしまった場合、支障はないのでしょうか? 井形)このような制度が必要な理由として、「日本国内の政府と民間でより信頼できる人同士、情報を共有しよう」という側面がある一方、他国との情報共有をより緊密にできるようにすることが1つの目的としてあります。他国から「日本のクリアランス制度は穴だらけだ」と思われれば、国際的な情報共有が進まなくなってしまいます。ですので、見切り発車は危ないですね。 新行)きちんと中身を議論する必要があるのですね。
厳しい罰則を設けなければ他国に信頼されない
井形)もう1つの論点は、罰則のところだと思います。 新行)情報を漏らした場合の罰則ですか? 井形)「情報を漏らしても罰金30万円で終わり」となると、海外から信頼してもらえるのかどうか。 新行)他の国だと、どんな罰則があるのでしょうか? 井形)かなり重い罰則になっています。今回の法案でも一応、懲役5年以下などの罰則になっていますが、韓国では政府が重要だと示した先端科学技術の情報を漏洩した場合、最高で懲役18年の罰則になります。アメリカでも、リークする情報の重要性によっても変わりますが、かなり長い懲役刑が当たり前になってきています。ただ、日本人では罰則が重すぎると「自分は怖いからクリアランスを取りたくない」と考えてしまう可能性があるので、このバランスも争点になると思います。
国際会議ではクリアランスを持っている人でないと参加できない場合が少なくない
新行)セキュリティ・クリアランスに関しては、「G7のなかで制度がないのは日本だけ」ともよく言われます。例えば井形さんが国際会議に出るなかで、クリアランスがないために困ったことはありますか? 井形)あります。会議に初日にしか参加できないこともありました。 新行)初日だけは出られても、「以降は参加できない」と言われるのですか? 井形)2日目からはクリアランスを持っている人でないと参加できない、というようなことは海外だとよくあります。 新行)それは日本の国益にも関わってきますよね。 井形)そうですね。