史上差高値3億円マグロ釣った船長が行方不明 大間沖合で転覆、同乗船員は死亡確認
青森県沖合の津軽海峡でマグロ漁船が転覆し、3億円を超える1番マグロを釣った男性が行方不明になっている。マグロ漁船「第28光明丸」(4・9トン)の船長の藤枝亮一さん(70)=青森県大間町=で、同船で2019年1月に釣り上げた278キロのクロマグロは、初競りで3億3360万円の史上最高値を付け現在も記録は破られていない。 19日午後8時ごろ、大間漁協から青森海上保安部に、2人が乗った第28光明丸が帰港しないと連絡があった。海保によると、大間埼灯台沖で同船とみられる転覆した船を発見、船員須藤愛教さん(55)=同町=が海上で発見され、死亡が確認された。須藤さんは藤枝さんの義弟で、3億円マグロも2人で釣り上げていた。 第28光明丸は19日午前1時に出港して同日午後5時に戻る予定だった。見つかった転覆船は、天候悪化により一度位置が分からなくなったが、約17キロ南東で再び見つかった。大間漁協関係者は「今の時期は“いい年が越せるように”と皆張り切って漁に出ている。昨日も夕方までは風が特別強いわけではなく、第28光明丸以外の船も漁に出ていた」と話した。 藤枝さんは仲買人からマグロの一本釣り漁師となった異色の経歴の持ち主。約25年ほど前の仲買人時代、所有していた小さな船でいきなり188キロのマグロを釣り上げ、達成感が忘れられず中古漁船を買った。効率の良いはえ縄漁に切り替えるか悩んだ時期もあったが、潮の流れを読みマグロと駆け引きする一本釣りに魅力を感じこだわってきたという。 19年の初競りで税金などを引いて半分の約1億5000万~1億6000万円を手にしたが、当時は「船の修繕費に充てる」と話していた。翌年、新型コロナウイルスが流行した際には収益の一部を使い、大間町などに計4万6800枚のマスクを寄贈していた。釣り好きで知られた俳優の松方弘樹さん(2017年死去)とも親交があったという。漁協関係者は「明るい人柄のベテラン。しけで捜索船が出せず、仲間はおかから目視で捜している。とにかく無事を祈るしかない」と沈痛な思いを語った。 ≪大間の一本釣り 一獲千金の夢 小型船で危険と隣り合わせ≫ 大間町沖の津軽海峡は、黒潮、対馬海流、千島海流の3つの海流が流れ込むため、多くのプランクトンが棲息しており、それを餌とするマグロも集まる。近海でマグロが釣れることで一本釣りが伝統的な漁法の一つとなっている。一本釣りは網で捕獲する漁法とは違いマグロに傷が付かず、鮮度を保って出荷することが可能となるため「大間のマグロ」として高級マグロの代名詞となっている。 一本釣りの漁船は一般的に10トン以下。はえ縄漁などより小型で「海が荒れた場合などは危険度は高まる」(漁協関係者)と命がけの仕事だ。一方で、1匹に数千万円を超える高値が付くこともあり、一獲千金を狙える。 ≪生存時間は1~6時間≫現場付近の午後8時ごろの天候は風速約7メートル、波の高さ約1メートル、水温11度だった。近海のマグロ一本釣りでは「一般的な防寒具のみで、ウエットスーツなどは身につけていない」(漁協関係者)という。水中では空気中より25倍速く体温が下がるとされており、水温10~15度では、1~2時間で意識不明となり、予想生存時間は1~6時間程度とされている。青森海上保安部による昨年の管轄内の統計では船舶15隻が海難に遭っている。