「輪島塗がなくなるかも」修業の恩返しを決意 伝統漆芸展の最高賞受賞者と妻、漆器や蒔絵で担い手を支援
石川県で輪島塗を学んだ佐久穂町の漆芸家伴野崇(とものたかし)さん(40)と妻で漆芸家の井坂友美(ともみ)さん(35)が、能登半島地震で被災した輪島塗に携わる人たちを支援するため、自身の作品や支援に賛同する仲間の作品をウェブでチャリティー販売している。わんや酒器、さじなどで、最低限の原価だけを除いた収益の全額を支援金に充てる。伴野さんは約8年間、井坂さんは約4年間、輪島で修業していた。 【写真】輪島で修業した漆芸家夫妻が手がけた漆器や蒔絵の絵巻皿
震災当日、自宅で見た地震速報の「震源地 石川県」の文字に「何かの間違いかと思った。火事のところもあって、あの日は寝られなかった」と井坂さん。伴野さんは「今も行方の分からない知り合いがいる。被災した知人にも、どう声をかけたらいいか分からない」とうつむく。
伴野さんは「あれだけ街が崩れてしまったら輪島塗をやめてしまう人も出てきてしまうのでは」と危機感を抱いた。崩れた建物の中には漆器作りのための建物「塗師屋(ぬしや)」もあったという。井坂さんも「元々の担い手不足に拍車がかかってしまう」と心配する。震災から1週間後の1月7日にチャリティー販売を始めた。伴野さんが代表の伴野漆工藝(うるしこうげい)製作所(佐久穂町)のホームページから購入できる。
販売する井坂さんの蒔絵(まきえ)作品には輪島の風景が描かれた絵巻皿がある。「漆は長く残るもの。何を残していくべきか、考えて蒔絵にしている」という。伴野さんは「手に取ってもらい、輪島塗を見てほしい。この技術がなくなってしまうかもしれないことを知ってほしい」と話す。
伴野さんは今月始まった「第41回日本伝統漆芸展」で最高賞の「文部科学大臣賞」を受賞した。長野県内からは初の快挙。伴野さんは「今回の賞も輪島で覚えた技術によるもの。輪島では先人が積み上げてきたものを学ばせてもらった。恩が大きい」と語った。