バイデン大統領が「韓国の戦略司令部」に“待った”をかけたわけは【ニュース分析】
クォン・ヒョクチョルの「見えない安保」
「尹大統領は韓米同盟の連合防衛態勢に韓国のすべての力量を適用することを確認した。これは韓国の新たな戦略司令部と韓米連合司令部間の力量および企画活動を緊密に結びつけるために堅固に協力することを含む」 昨年4月26日(現地時間)の韓米首脳会談で採択された「ワシントン宣言」の一部だ。「ワシントン宣言」は、韓米首脳レベルで拡大抑止運営案を明らかにした最初の合意文書。当時、韓国国内では拡大抑止に関心が集まり、この部分は注目されなかった。 「韓国の新たな戦略司令部」は今年後半に創設される予定だ。世界で最も忙しいジョー・バイデン米大統領がどうして、米軍部隊でもない、当時の基準で1年半後に作られる韓国の軍部隊の創設に関心を傾けたのだろうか。戦略司令部が韓米連合防衛体系、すなわち韓米同盟と密接に関係するからだ。 戦略司令部の創設は、朴槿恵(パク・クネ)政権時代の2016年1月、北朝鮮の4回目の核実験後に初めて議論された。当時、戦略司令部に関する議論に関わったある人物は「戦時作戦統制権(戦作権)の移管と連係し、北朝鮮の核への対応を主導する韓国軍司令部として戦略司令部創設案が初めて出た」と語った。朴槿恵政権が当初「朝鮮半島の戦争遂行構造のレベル」で戦略司令部の創設について議論を始めたという意味だ。 韓国は1994年、平時作戦統制権を取り戻したが、依然として戦作権は韓米連合司令部にある。今のような「デフコン4」の状況では韓国軍が作戦統制権を行使するが、朝鮮半島で危機が高まり「デフコン3」になれば、韓国軍の作戦統制権は韓米連合軍司令部に移る。デフコンは朝鮮半島での「敵の挑発に対する防衛準備態勢」を意味するが、軍事的緊張が高まると共に、4→3→2→1の順に段階的に高まる。 「デフコン3」以降の状況では、首都防衛司令部や第2作戦司令部などを除いた大半の韓国軍の戦力が、韓米連合司令部の下に入る。緊張がさらに激化し、朝鮮半島が核戦争間近の局面になった場合は、米国のインド太平洋司令部、戦略司令部も介入する。朴槿恵政権時代、戦略司令部創設の議論にかかわった人物は、「朝鮮半島有事の際、戦争の主導権が米国にあり、戦作権のない韓国にできることはほとんどない。その対応策として戦略司令部の創設案が浮上した」と述べた。戦略司令部を新たに作って韓米連合司令部の指揮体系の外部に置き、朝鮮半島有事の際、独自の戦争発言権を確保するという構想だった。 尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は6月21日、高度化する北朝鮮の核・ミサイルによる脅威に対応するため、戦略司令部の創設を国政課題に掲げ、「戦略司令部令制定案」を立法予告した。戦略司令部は北朝鮮の核・ミサイルによる脅威に備える3軸体系(キルチェーン、韓国型ミサイル防衛、大量報復)に関連する兵器を統合的に指揮・運用する予定だ。戦略司令部が統制する兵器は、陸軍の玄武(ヒョンム)系列の弾道ミサイル(射程1000キロメートル以上、弾頭重量2トン以上)や空軍のF35ステルス戦闘機、海軍の3000トン級潜水艦などが挙げられる。 米国は、韓国の戦略司令部が韓米連合司令部の指揮体系の外部で、単独で「キルチェーン作戦」を遂行する可能性を懸念している。キルチェーンは、北朝鮮の核・ミサイルに関連する指揮・発射・支援体系や移動式発射台(TEL)などの主要標的を迅速かつ正確に探知し、使用の兆候が明らかになった場合、発射前に除去するシステムだ。韓国が北朝鮮を先制攻撃して朝鮮半島で戦争が起これば、在韓米軍も巻き込まれることになる。 米国の立場からすると、「朝鮮半島の戦争抑止」には北朝鮮だけでなく韓国も含まれる。米国の外交安保シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)のビクター・チャ上級副所長は、2009年に発表したある論文で「作戦統制権という『紛れもない国家主権』を侵害した理由は、韓米連合戦闘力を容易にするためだけでなく、北朝鮮に対抗して韓国が好戦的な性格の一方的な行為に走ることを防ぐためだった」と指摘した。 米国は昨年4月、「ワシントン宣言」に「韓国の戦略司令部と韓米連合司令部間の力量および企画活動を緊密に連結するために堅固に協力(する)」という文言を入れることで、韓国の戦略司令部が韓米連合司令部(米国)の統制から外れる独自行動(先制打撃)をしないという公開的約束を文書で取り付けた。米国の立場としては、望まない戦争に巻き込まれないよう安全装置を設けたわけだ。 尹錫悦政権は6月21日、「戦略司令部令制定案」を立法予告した。キム・ソンホ国防部次官は18日、安保・軍事専門家を対象に戦略司令部に対する政策説明会を開き、「戦略司令部は韓米核協議グループ(NCG)運用と連携し、核と通常兵器の統合作戦概念および方案の発展と、宇宙・サイバー・電磁気スペクトルなど新領域で戦闘の発展を主導する部隊になる」と述べた。戦略司令部は連合防衛体系の中で、米国の通常兵器と核の統合運用(CNI)を支援することになる。戦時に戦略司令部が連合司令部の指揮体系の中に入れば、戦略司令部隷下の戦力も全て連合司令部に転換され、8年前に朴槿恵政権が「北朝鮮の核(に対応する)韓国軍の主導司令部」のレベルで始めた戦略司令部創設の趣旨が薄れる。 ある予備役将軍は、「戦略司令部の創設は、韓国軍における軍の構造と韓米連合防衛体制(韓米同盟)の変化を求める重要な国防政策であり、朴槿恵政権時代から軍内部で賛否が拮抗した争点だ。戦略司令部の創設は文在寅(ムン・ジェイン)政権も国政課題に掲げたが、海・空軍の反対などであきらめざるを得なかった。そのような戦略司令部の創設が、軍内部の説得や軍外部との疎通、国民の共感を得ることなく非公開で進められ、6月には戦略司令部令制定案の立法を予告するに至った」と語った。意思疎通を図ることなく密室で物事を進める尹錫悦政権の国政運営方式が、戦略司令部の創設過程でもそのまま繰り返されているという指摘だ。 クォン・ヒョクチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )