『さよならマエストロ』が描く才能との向き合い方 満島真之介と西田敏行が凡人の心情代弁
好きという気持ちが断たれた天音(當真あみ)
俊平に振られてしまった鏑木は、自身をモーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」に登場する従者レポレッロになぞらえる。“振り回されてもとことん尽くす男”鏑木は、支える側の気持ちを代弁していた。俊平が世界的な指揮者になることを「独りよがりな夢」だったと鏑木は振り返る。傷心の鏑木を、二朗は「俺も振られっぱなしだよ」となぐさめた。 そこから西田敏行の代表曲「もしもピアノが弾けたなら」にも重なる心境が語られる。天才と凡人を結ぶのは好きという気持ちかもしれない。二朗と鏑木は音楽への愛情という点で一致している。中途半端に楽器に手を出した自分を「神様はちゃんと見ている」と自嘲する二朗だが、二朗がいなければ地域にこれほど音楽が根付くことはなかった。神様はちゃんと見ていて、出張アンサンブルの「アマポーラ」は二朗への最高のギフトになった。 西田が今作に与える影響ははかり知れない。病室で二朗は自身の音楽遍歴を語るが、自然な間合いと語り口に引き込まれた。胸襟を開くパーソナリティと演技にプラスアルファを加える点で、満島真之介は西田に通じるものがある。二人の会話はほろりとする人間味があって相性の良さを感じさせた。 好きという気持ちが断たれてしまったのが天音(當真あみ)だ。父の白石(淵上泰史)からバイオリンをやめるように言われ、泣きじゃくる天音は観ていて辛かった。俊平が本当にドイツ行きを諦めてしまったかは気になるところだ。四国への里帰りが俊平に何をもたらすか見守りたい。
石河コウヘイ