狭いコートに2メートル超えの対戦相手、第4セットではメディカルタイムアウト… 絶対絶命的な状況から錦織圭が見せた底力【全仏テニス】<SMASH>
試合直後――。ファンがスマホを手にコートを後にする勝者を追うなか、錦織はトレーナーに先導され、選手ラウンジへの道を急ぐ。錦織が会見室に現れたのは、試合終了から、約2時間後。時計の針は、0時を超えていた。 死闘の余韻と深夜特有のテンションが会見室を満たすなか、当の錦織だけは一人、何事もなかったかのような平時の佇まいで、そこにいた。 疲労の色は当然ながらありながらも、何も飾らず取り繕わず、時にユーモアも交えて質問に応じるその姿もまた、既視感に満ちた光景だった。2014年全米オープンでミロシュ・ラオニッチ(カナダ/同196位)に勝った後の深夜の会見も、ケガからの復帰間もない18年の全仏オープン2回戦で、ブノア・ペール(フランス/同155位)にフルセットで勝った時も……。 会見での終盤。4セット目終了時にMTOを取った心境を問われると、錦織は少し目線を落として、朴訥な口調で言った。 「身体が痛いのを取るか、尿漏れを取るか悩んだんですけど、ワンチャン、60秒でトイレ行けばいいかなと思って。でもダッシュで行ったんですけど全然止まらなくて、それであんなギリギリになっちゃったんですけど……」 この良い意味での脱力感も含め、錦織圭が、帰ってきた。 現地取材・文●内田暁