SLなき釜石線に新観光列車「ひなび」 おもてなしに期待
列車は沿線随一の観光地・遠野でも50分停車したが、あいにくの雨で街中散策は断念。郷土料理ですいとんの一種「ひっつみ汁」を味わった後、観光案内所や売店を備えた駅前の観光交流センター「旅の蔵遠野」で買い物をした。名産のどぶろくや土産物など、豊富な品ぞろえで飽きない。いくつかトンネルを抜けた列車はやがて、険しい山間部に入る。釜石線のハイライト、仙人峠は高低差を克服するため線路がヘアピンカーブ状になっており、眼下にこれから通る線路と停車する陸中大橋駅が見えた。 終点の釜石では雨が強まり、1時間半近い折り返しを待つ間、駅前の市場「サン・フィッシュ釜石」で帰りに味わう刺し身などを調達。隣の観光施設「シープラザ釜石」ではラグビーの街にふさわしく、2019年ワールドカップ(W杯)日本大会や、強豪だった新日鉄釜石のユニホーム、優勝トロフィーなど記念品も展示されていた。両施設は食事もできるほか特産品の品ぞろえも充実していて、駅待合室にとどまるのはもったいない気がする。ただ釜石駅にも売店やそば屋があり、時間をつぶすことは可能だ。改札を出ると合格祈願の神社に見立てたひな壇も設置されていた。SL銀河時代は遠野で燃料の石炭補給、釜石でSLの方向転換と乗客を飽きさせない仕掛けがあったが、給炭装置や転車台が今後どうなるかは気になるところだ。
帰りもグリーン車で、3席しかない1人用〝ぼっち席〟に。窓側に向かって座るようになっており、机のようなテーブルを備えている。隣席とはパーティションで仕切られ、プライバシーに配慮されている。運賃のほか、ひなびのグリーン料金は2千円、普通車指定料金は840円。目の前の大きな窓も独り占めできるので、1人用グリーン席を予約できたのは幸運だった。どぶろくをなめながら、のんびり車窓をながめた。アテンダントによる車内販売だけでなく、事前に予約すれば車内で弁当を受け取ることもできる。 JR東日本盛岡支社によると、東日本大震災の復興のシンボルとして2014年に運行が始まったSL銀河は約7万4千人が利用した。太平洋戦争前に製造されたSLや、客車のレトロな内装などが人気だったという。ひなびはその後継になれるのだろうか。秋田―青森の日本海沿いを走行し人気の五能線「リゾートしらかみ」のように、車内での民謡演奏などイベントや地元特産品の販売があってもよいと思った。新型列車だが車内無料Wi―Fiがなく、充電用コンセントがフリースペースに3カ所ずつしか設置されていないことも気になった。今回はグリーン車、普通車ともほぼ満席で、滑り出しは上々のよう。駅や車内のイベントや設備を拡充し、乗客を退屈させないような仕掛けがあれば、新たな観光需要を掘り起こせるのではないかと今後に期待している。
☆共同通信・寺田正