『ブギウギ』笠置シヅ子の心情が詰まった幻の「大空の弟」 スズ子の心境とも重なる楽曲に
「どんな気持ちで死んでいったんやろ。怖かったやろなぁ。寂しかったやろなぁ。かわいそうやったなぁ」 【写真】「別れのブルース」を歌う菊地凛子 スズ子(趣里)の悲痛な叫びに胸が締め付けられた。 「ブギの女王」として一世を風靡した歌手・笠置シヅ子さんの生涯をモデルにしたNHK連続テレビ小説『ブギウギ』。最愛の弟・六郎(黒崎煌代)の戦死の知らせを受け、うまく歌えなくなったスズ子に羽鳥(草彅剛)が「これなら歌えるんじゃないか」と新しい楽譜を渡す。 それが、第10週のタイトルとなっている「大空の弟」だ。師弟関係にあった服部良一さんが「村雨まさを」というペンネームで作詞・作曲を手がけ、笠置さんが歌った数少ない軍歌の1つである。 驚くことに、同曲の楽譜が発見されたのはたった4年前のこと。笠置さんの半生を描いた舞台「『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』~ハイヒールとつけまつげ~」の制作過程で、服部家の所蔵庫から発見された。曲名自体は残っており、笠置さんの自伝『歌う自画像 私のブギウギ傳記』(北斗出版社)の中にも「仏印の大空に散華した弟八郎の英霊に捧げた」曲として記載されているが、音源はおろか具体的な内容を示す資料などはそれまで見つかっていなかったそうだ。 弟である八郎さんに関しての資料もわずかしか残っていないが、笠置さんは自伝で「弟は私のいうことなら何でもよく聞いてくれました。ほんとに可愛い弟でした」とその思いを綴っている。昭和13年1月8日に四国丸亀の師団に行ってからも、八郎さんが帰ってきた時のために商売の元手になるようにと松竹楽劇部(現:OSK日本歌劇団)から受け取った退職金を預金していたそう。しかし、その願いも虚しく出征から3年後の昭和16年に八郎さんはフランス領インドシナ(ベトナム付近)の空で命を落とした。 「大空の弟」の楽譜発見を報じた2019年11月の朝日新聞デジタルの記事(※)では歌詞の一部が発表されており、服部さんの言葉で最愛の弟を亡くした笠置さんの心情が書かれている。一方で、最後は〈声を限りに歌うとき まぶたに浮かぶ弟よ わたしもニッポン女性なり つとめ変われど 国のため 歌に血潮をたぎらせて 果たす御国(みくに)の民の道 果たす御国の民の道〉と結ばれていたそう。 敵性音楽としてジャズが禁止される中、音楽を続けるためにはそうした愛国精神が滲む軍歌を作らなければならない状況だったのだろう。六郎の戦死を受け止めきれないまま、開戦に沸く民衆と共に万歳三唱をしたスズ子の複雑な心境ともどこか重なる楽曲に思えた。 そんなスズ子は羽鳥から誘われたりつ子(菊地凛子)との合同コンサートで「大空の弟」を披露することになる。前述した舞台では、演出の白井晃と脚本のマキノノゾミが同曲にアレンジを加え、笠置シヅ子役を演じた神野美伽が歌ったが、多くの人はまだ聴いたことのない幻の曲。本作ではどんな楽曲に仕上がっているのか。また、スズ子を演じる趣里がどのようにそれを歌い上げるのか。終戦から78年。世界各地で戦争が起きている今だからこそ、心してスズ子が歌う「大空の弟」に耳を傾けたい。 参照 ※ https://www.asahi.com/articles/ASMC835D3MC8PTFC009.html
苫とり子