『不適切にもほどがある!』が面白すぎるにもほどがある! 阿部サダヲ×宮藤官九郎の問い
今クール、もっとも楽しみにしていたドラマがはじまった。そう、『不適切にもほどがある!』(TBS系)だ。これがもう、面白すぎるにもほどがある! 【写真】『不適切にもほどがある!』第2話に出演する宮崎吐夢、柿澤勇人、板倉俊之、トラウデン直美 主演は我らが阿部サダヲで、脚本を担当しているのは我らが宮藤官九郎。これほどまでに期待に胸が高鳴る組み合わせというのは、そうそうないのではないだろうか。「ベスト(適切)にもほどがある!」と叫びたいくらいである。おそらく多くの視聴者が同じ気持ちなのではないか。 2023年は脚本を担当した『1秒先の彼』と『ゆとりですがなにか インターナショナル』という2本の映画が公開された宮藤。『離婚しようよ』(Netflix)に『季節のない街』(ディズニープラス )といった配信作品の脚本も立て続けに手がけているが、彼が民放ドラマの脚本を担当するのは2021年放送の『俺の家の話』(TBS系)以来のこと。同作は伝統芸能である能とプロレスをモチーフにしたユニークな作品で、次は何を仕掛けてくるのか誰もが期待していたことだろう。 しかも主演俳優としてタッグを組むのは、大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK総合)でもタッグを組んだ阿部である。『不適切にもほどがある!』の第一報が出た時点で、期待値のメーターが振り切れたのは私だけではないはず。本作が描くのは、1986年から現代へとタイムスリップしてしまった“昭和のおじさん”が巻き起こす社会派(?)コメディだ。主人公であるこのおじさん・小川市郎を演じるのが阿部なのだが、令和を生きている私たちからすると彼の言動はメチャクチャ。 中学の体育教師で野球部の顧問を務める市郎は、いまの時代では考えられない根性論を振りかざし、子どもたちに何か問題があると判断すれば即ケツバット。教室でも公共の場でもタバコを吸い散らかし、ここに書くこともはばかられるような下品なセクハラ発言や暴言を赤の他人にもぶつけまくる。いまの時代では、一瞬で社会的に抹殺される存在だ。 市郎の不適切すぎる言動が現代においては浮きまくり、これが私たちから不謹慎な笑いを引き出すのが本作の魅力のひとつだ。彼の言動はあまりにも振り切れていて、個人の自由よりもコンプライアンスが重んじられるこの時代では、むしろ痛快に映るというもの。多くの人がハラスメントの加害者になってしまうことに怯えながらいまを生きているのだから。 むろん、いかなるハラスメント行為も言語道断。許してはならない。けれどもコンプライアンスを意識するあまりに身動きが取れなくなり、息苦しさをおぼえている人がいるのも事実だろう。“多様性の時代”だというのに、これだと思考が凝り固まってしまう。そんな現代人である私たちに、阿部サダヲと宮藤官九郎のゴールデンコンビがある種の“問い”を投げかけるのが本作なのだ。 宮藤が脚本を手がけた『舞妓Haaaan!!!』(2007年)、『なくもんか』(2009年)、『謝罪の王様』(2013年)という3本の映画で阿部は主演を務めているし、TBSドラマでは『池袋ウエストゲートパーク』(2000年)、『木更津キャッツアイ』(2002年)、『タイガー&ドラゴン』(2005年)といった伝説的な作品に阿部は参加。名作の盛り上がりに貢献してきた。日本のエンターテインメント界においてこのふたりは、やはりゴールデンコンビなのである。 そもそも阿部と宮藤はともに、松尾スズキが率いる劇団「大人計画」のメンバーである。「大人計画」の持ち味といえば、エキセントリックな設定にナンセンスな笑い。そしてこれを怪演で体現してみせる個性的な俳優陣の存在も大きい。それこそこの劇団は、『不適切にもほどがある!』の市郎が生きる昭和の末期に誕生した。いまだに上演作品の作風は過激だったりするが、時代の変化に合わせて価値観をアップデートしている印象は確実に受ける。これが宮藤の手がけるドラマにも反映されるのは当然だというものだろう。 『不適切にもほどがある!』の第1話の終盤にはミュージカルシーンが登場し、多くの視聴者を唖然とさせた。あまりにもナンセンス。しかし、この歌の内容は“対話の重要性”を訴えるものだった。繰り返されるのは「話し合いましょう」という言葉。もしもこれが普通に用いられていたならば、暑苦しく説教くさいものになっていたかもしれない。セリフではなくリリックだからこそ、この切実なメッセージは私たちに優しく届くのだ。やっぱり、面白すぎるにもほどがある!
折田侑駿