“ウェブショッピング”ならふるさと納税の趣旨ではない 元日本一の平戸市・黒田市長
「ふるさと納税」のあり方を見直す地方税法改正法案の審議が国会で進んでいる。返礼品を「調達価格が寄付額の3割以下の地場産品」に限ることを盛り込んだこの改正案は、3月末までに成立する見通しで、政府は6月からの制度変更を目指す。 【動画】返礼品競争が過熱 ふるさと納税発案の福井知事が語る「本来の趣旨」
法案提出の背景にあるのは、言うまでもなく、ふるさと納税の過度な「返礼品競争」だ。総務省は昨年9月、法案と同じ趣旨の見直し方針を打ち出したが、今年に入り「閉店キャンペーン」と銘打ちアマゾンギフト券を提供する事例も登場している。 ふるさと納税は、人口減少や過疎化に悩み、財政事情が厳しい地方自治体にとって貴重な財源の一つだ。それを地方ではどう評価して、どう活用しているのか。かつてふるさと納税の寄付額が日本一だったことのある長崎県平戸市の黒田成彦市長は「本来はそのふるさとにしかない価値、モノを乗せて絆をつくるもの。ウェブショッピングであれば、その趣旨ではない」とふるさと納税の現状を憂う。黒田市長に聞いた。
誘致企業もない海に囲まれた過疎の街
平戸市といえば、キリスト教イエズス会の宣教師、フランシスコ・ザビエルの布教やオランダ交易の拠点として歴史に登場するイメージが強いかもしれない。 九州本土の西北端に位置する同市は人口約3万4000人、平戸島とその周辺の大小約40の島々から構成される海に囲まれた過疎の街だ。
この地域に生まれた黒田市長は「長崎市とは南に約100キロ、福岡市とは東に100キロ離れ、福岡経済圏と、県都である長崎市経済圏の谷間にある、まったく不利な地域。基幹産業は農林水産業と観光なので、誘致企業はない」と笑う。平野部が少なく、山が海岸線に迫り、集落も点在していて「なかなか不便な街」だという。 大きな産業がないと黒田市長が謙遜する平戸市だが、実はふるさと納税の受け入れ額が全国1位だった時代がある。
ふるさと納税ありきで政策を進めていない
平戸市の寄付額は、2010(平成22)年度から2012年度まで年間100万円前後で推移していたが、2013(平成25)年度に3910万円、2014年度には急増し、14億6258万円を記録。この年、平戸市は寄付額日本一になった。 さらに勢いは続く。2015年度には25億9967万円と同市としては過去最高額を達成した。躍進の背景には、同市の「返礼品カタログ」の編集と「ポイント」制度の導入がある。こうした先駆的な取り組みは他の自治体に影響を与えた。 「ふるさと納税のノウハウや、(返礼品)カタログによる地域の魅力発信ということが基調となって、それを参考にした自治体がだんだん出てきて、認知度も高まった。(ふるさと納税を扱う)ウェブサイトや、それを運営する会社も登場し多くの寄付金を集める自治体が出てきた。われわれもその流れに乗って(寄付額が)26億円になった」 しかし、この頃からいわゆる返礼品競争が熱を帯び始める。2015年に総務省は「換金性の高いプリペイドカード」などは返礼品としないことを求める通知を出している。 納税者にとって、寄付する先の「選択肢」が増え、ふるさと納税の盛り上がりと反比例する形で平戸市の寄付額は減少する。2016年度には16億5284万円、そして2017年度には10億7370万円まで落ち込んだ。ただ、黒田市長はこの状況を悲観的にはみていないという。 「(寄付額が)だんだん収斂されて底打ちになるのは、いろいろな自治体に寄付をしてきた納税者たちが『自分はこの街とお付き合いしたいな』と定まっていくことで、その土地に合った魅力、その土地が醸し出せる、引きつける価値の数字が落ち着いてくるということ。それが身の丈に合った額だと思う」 何より、財政というものは「永続性が大事」だと強調する。「制度や使い道は、いったん走り出すとそれが常態化して安定期を求めるので、どんどん少額化していくと不安にもなる。しかし、もともと私たちはふるさと納税ありきで政策を進めてきているわけではない」 ちなみに平戸市によると、市の予算に占めるふるさと納税の割合は、2019(平成31)年度ベースで、予算総額277億円のうち、歳入の3.6%、歳出の充当財源では6.7%だという。ふるさと納税の使いみちとしては、高齢者の足としてコミュニティバスを運行させるなどの交通政策や、保育料の軽減などの子育て・教育政策、特産品をつくる担い手をサポートする農林水産業政策などに活用されている。