原油価格の回復はいつ? 原油安が日本経済・日本株に与える影響とは?
このチャートは原油とUSDを比較したものです。百聞は一見にしかず。
じつは目立たないところで、日本経済のプラス要因に
それでは、原油安が日本経済および日本株にどのような影響を与えるか考えてみたいと思います。結論を先取りすると、原油安はあまり目立たないところで、日本経済にプラスの影響をもたらしており、日本株にとっても、やや長い目でみればプラス材料と判断されます。日本の原油輸入金額は直近1年で約8兆円が節約できたと試算され、その規模は消費増税分(1%あたり2.7兆円×3%分)に匹敵します。そして、このボーナスの大部分は企業収益の改善につながっています。 それにしても、原油安はそのデメリットばかりが取り沙汰されていますが、それはメリット・デメリットの発現に時間的差異が生じていることが一因でしょう。 たとえば、原油安のデメリットは「原油価格下落を受けて米エネルギー株が急落。米国株式市場では幅広い銘柄に売りが広がり、NYダウは○○ドル安。それを受けて日本株も下落した」といった具合に直ちに確認できます。ごく短期的にみれば、原油安は日本株の下落要因となっています。 一方、メリットの多くは企業収益改善という形で出現しますが、それを確認するには四半期ごとの企業決算の公表を待つ必要があるため、どうしても過去の話になりがちです。 また、決算をみても、その変動が原油安のみでは説明できないため、目立ちにくいという事情があります。ただし、日本企業の売上高経常利益率は既に過去最高を更新しており、この背景に原油(資源)安があることは事実です。実際、法人企業統計で経常利益を要因分解すると、原油安の影響が比較的ダイレクトに反映される交易条件要因が改善しており、日本企業の利益を押し上げていることが確認できます。
原油価格反発のカギを握るのは?
このように原油安は基本的には日本経済にポジティブと考えられますが、今回のようにあまりにも急激な下落は資源国の打撃を通じて、世界経済にさまざまなひずみを引き起こすので、ネガティブな面が目立つということです。 最後に原油価格の見通しを触れておきたいと思います。原油価格反発については、需要と供給のバランスが均衡を取り戻すことが必須条件ですが、それには需要側(主に中国)経済の回復を待つよりは、産油国(中東・米国)の生産調整を待つほうが早そうです。実際、昨年10-12月期に米国の原油生産が減少し始めたタイミングでは原油価格が持ち直す場面がありました。現行のWTI30ドル近辺では、採算の採れない油田が数多く存在するとみられますので、そうした油田が操業停止を余儀なくされることで、原油生産は抑制される見込みです。そうすれば、遅かれ早かれ供給過剰懸念は和らぐでしょう。30ドル割れの水準が長期化するとは考えにくく、年央に向けて緩やかな反発を見込みます。
※次回は日銀の金融政策決定会合およびその結果に重大な影響を与えるデータを解説する予定です。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。