【丸わかり!】阿部サダヲ、木梨憲武、原田泰造ほか…冬ドラマは「不適切おじさん」たちの背中を見よ!
冬ドラマのラインナップを見渡すと“50代の男性俳優が主役”という作品が多い。ハラスメント、多様性、性自認、コンプライアンスといった価値観が現代バージョンにアップデートできないおっさんたちが目立っているのだ。話題作をひとつずつ紹介していこう。 なんと不適切…!勢いに乗る阿部サダヲの見せた笑顔! ◆もうギャグの域か?昭和の頑固親父たちが登場 まずは『春になったら』(フジテレビ系)で、木梨憲武(61)演じる椎名雅彦。 がんに冒されて、余命3ヵ月である雅彦。延命治療を希望せず、短い命でも仕事をしながら明るく死にたいという希望が視聴者の胸を打つ。ここまではいい。問題は一人娘の瞳(奈緒・29)の結婚を何が何でも認めないという雅彦の頑固な姿勢である。結婚に反対する理由は、瞳の恋人の一馬(濱田岳・35)が彼女より10歳年上のバツイチ子持ちで、まったく売れない芸人だから(第5話では芸人を辞めて、塾講師の正社員に)。 男性の外側=スペックではなく、本質を見てパートナーを選んだ瞳は正しい。それをむやみに反対するとは厄介な話だ……と思っていると、さらに時代遅れのおっさんが飛び込んできた。『不適切にもほどがある!』(TBS系)の主人公・小川市郎(阿部サダヲ・53)である。 昭和からタイムリープしてきた市郎は、令和にまったく馴染めない。ところ構わずタバコを吸い、隙あらば女性を口説いて、合意のない性行為に持ち込もうとする問題中年男児。『春になったら』等との違いといえば、古臭い価値観やおっさん文化を敢えてピックアップして作品に取り込んでいるところ。肯定派コメディードラマなのだ。 こちらの作品、非常に面白い。放送時に毎回SNSでトレンド入りしているのは、昭和の文化に関心がある若者や当時を懐かしむ人が多い証拠。どこに人の地雷があるのかわからないデリケートな時代に、現代人がやや辟易しているのかもしれない。 ◆視聴者からの共感が高い『おっパン』が話題に 動画配信が好調で初回が約89万回も再生された『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(東海テレビ・フジテレビ系)の主人公は、古い常識や価値観がこびりついた51歳の沖田誠(原田泰造・53)。知らぬうちに娘は二次元オタク、息子はトランスジェンダーとなり、家族とのコミュニケーションが立ち行かなくなっている。 「お茶は女性がいれてくれた方が美味しいだろう」「愛嬌は女性の武器だろ。嫁にいきそびれるぞ」 会社でもこんな調子で、趣味のために有給を取得する社員が理解できない。自然と部下と距離が開いていく。今回ピックアップした“アップデートできていないおっさん軍”の中では、一番リアリティがある『おっパン』。自分のヤバさに気づいた誠が変わろうとしていくプロセスが本作の見どころだが、私が見たところ、誠はかなり重症。最終回までにすべて改革できるとは思い難い……。 ◆アプデできないおっさんドラマ、なぜ週末に放送? 最後に、可愛らしいおっさんが見られる2作品を紹介しよう。『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』(TBS系)の、主人公・夏目俊平(西島秀俊・52)は天才的な指揮者ではあるけれど、ふたりの子どもにはめっぽう弱い。家事も自分の世話もできず、家庭内での立場がない。フランス在住歴が長く、日本の価値観や言葉について、アップデートできていない場面もちらほら。ただ西島秀俊の見た目で、たいがいは許せる。 もう一作は、人気シリーズとなった『おっさんずラブーリターンズー』(テレビ朝日系)。並みいるクセ強出演者の中で、最も目立っているのが黒澤武蔵(吉田鋼太郎・65)だ。春田創一(田中圭・39)との恋がかなわず、早期退職して家政夫に転身するも、はるたんLOVEが止まらない。春田と結婚した元部下の牧凌太(林遣都・33)を祝福したいのに、対抗心をむき出しにして意地悪をしてしまい、「自分は古い人間なのではないか」と思い悩んでしまう。ところが武蔵は「自分は姑なのだ。だから嫁(牧)についツラく当たってしまう」と、思い直して仕事に打ち込むのである。この作品を支えているのは、登場するだけで「何かやってくれる」と視聴者の期待を膨らませてくれる、吉田鋼太郎劇場あってこそ。やや古い価値観もきっちり笑いに昇華させてくれるから見ていて清々しいのだ。 冬ドラマに並んだ、少々面倒なおっさんたち。『春になったら』以外、放送時間がほぼ週末だ。これは制作側から視聴者側のおっさんたちに向けた「ドラマで勉強をして、我が身を見直せ」というアラートなのかもしれない。 取材・文:小林久乃 小林久乃(こばやし・ひさの)/エッセイ、コラムの執筆、編集、ライター、プロモーション業など。著書に『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)、『45センチの距離感 つながる機能が増えた世の中の人間関係について』(WAVE出版)、『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)がある。静岡県浜松市出身。X(旧Twitter):@hisano_k
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