新妻聖子、舞台で戦い続けてきたミュージカルの歌姫が挑んだ新境地はJ-POP
オーディションに落ち続け、ぜんぜん夢がかなわないところからのスタートだった
芸能界デビューは大学生時代、バラエティー番組のリポーターだったが、もともと歌手志望でさまざまなオーディションにチャレンジしていたとか。 「MISIAさんの曲を歌ってカセットテープに録音して、あちこちのレコード会社に送って。でも、軒並み落ちました。『ピッチが甘いですね』と書かれた通知書とか、まだ家に残っていたり(笑)。歌唱力も個性も足りなかった」 そんな状況を変えてくれたのが、ミュージカル。「運命の出会いだった」という。 「普通はボイトレなどに通って体の使い方なんかを習うと思うんですけど、私の場合はミュージカルにポンと入ったことで、とにかくその場でやるしかなかったので、体が自然と調整してくれたというか、役の気持ちになると自然に声が出たんですね。練習では出なかった高い音も、役の感情になると出た。実戦でしたね。完全に」 いまや歌唱力には定評があるが、自信満々かというと、そんなことはない。 「常に不安しかないんです。オーディションに落とされ続け、ぜんぜん夢がかなわないところからのスタートだったんで。たぶん徐々に夢はかなってきているんでしょうけど、実感があまりなくて、疑心暗鬼というか。本当に私の歌を聴きにきてくれる方がそんなにいるんだろうかって。もう少し自分のなかで実績といえるものが積み上がらないと」
褒め言葉にも批判にも左右されない、自分の基準を常に持っていたい
そんな謙虚さを支えるのは、クオリティーに対する厳しい意識だ。 「褒め言葉にも批判にも左右されない、自分の基準を常に持っていたいんです。ファンの方はすごく褒めてくれる。ありがたいし、力になるんだけど、自分の基準に行くまでは安心しない。常にそこを見ています」 そしてその裏付けには、こんな願いがある。 「一音楽ファンとして、テレビをはじめ、生活の中に流れてくる音楽が常に上質でわくわくするものであればいいなって思います。若い子たちが良質な歌声に包まれるようなチャンスが増えればすてきだなって」 デビュー15年目。これからまだまだ戦いは続く。幸先よく、今年はプライベートでもハッピーな話題があったが、日常、気をつけていることはないか最後に聞いてみた。 「朝ごはんを食べるようにしてます。若いころは夜ふかしをしましたが、いまはなるべく早く寝て、朝8時には起きて、朝ごはんを。そうすると一日が驚くほど長いんですよ。早起きは三文の得って、大人にならないとわからないんですね」 歌を愛する戦士は、楽しそうに笑う。 (取材・文・撮影:志和浩司)