唐戯曲の豊かさ再認識…「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」、伝説的映画の舞台化に挑戦「デカローグ」
舞台合評
6月に首都圏で上演された良質の舞台作品について、読売新聞ステージ担当記者が語り合った。
山内則史 新宿梁山泊「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」は、紫テントに人気俳優が結集。唐十郎戯曲に込められたドラマは、これほどまでに豊かで奥深かったのかと、驚きとともに認識を新たにした。圧巻は傘職人のおちょこ役の中村勘九郎。弾むせりふと機敏な動きで舞台を駆け回り、目が離せなかった。
武田実沙子 最後、舞台後方の壁が開き、おちょこが傘を手に飛んでいく場面では、「平成中村座」だ、と思ったが、いやいや、この演出のルーツはテント芝居なのだと思い直した。
祐成秀樹 勘九郎の口跡、豊川悦司の色気、寺島しのぶの激情、風間杜夫と六平(むさか)直政の過激な弾け方など、役者を見る楽しさを存分に味わえた。
小間井藍子 ある集合住宅を舞台にした10の短編を4月から上演してきた新国立劇場「デカローグ」が完結。伝説的ポーランド映画の舞台化だったが、なかなかハードルは高かったのでは。娘を自分の母親から取り戻そうとする女性を描いた「デカローグ7」は出色だと思ったが……。
祐成 1~8を見た中で好きなのは、美女の生活を望遠鏡でのぞき続ける若者が主役の6。コミカルな設定と、登場人物の抱える孤独を通して愛し合うことの尊さについて考えさせられた。他も総じて面白かったが薄味な印象だった。
武田 劇団チョコレートケーキ「白き山」は、歌人・斎藤茂吉を、古川健が史実を基にフィクションとして書き下ろした。急きょ、代役で主役となった緒方晋が重厚さと柔らかさを併せ持つたたずまいで茂吉を演じたのが印象的だった。
山内 劇団普通「水彩画」は、茨城弁が心に染み入る石黒麻衣作・演出の新作。今回の舞台はカフェ。客たちのとりとめもないやりとりの中で起きる小さな気持ちの波立ちを、繊細に会話に潜ませる石黒の筆力は、今回もさえている。
祐成 「光廷(こうてい)と崩底(ほうてい)」は、平原慎太郎主宰のダンスカンパニー・Organ(オルガン)Works(ワークス)の10周年記念公演。終戦直後に自殺を図った日本軍幹部の混濁した意識の世界を描いた。ダンスでは珍しい題材だが、大がかりなセットを組んだ空間や多数のダンサー、映像を存分に使って、戦争の惨禍や追い詰められる人間の苦悩などを見事に描き出していた。
小間井 「GIRLFRIEND」は1990年代米国の男子高校生同士の恋を描いた2人ミュージカル。それぞれトリプルキャストで、島太星と吉高志音の回を見た。なかなか進展しないので、「もうくっついちゃえば?」と何度思ったことか。リアルな恋のもどかしさが伝わってきた。2人とも伸びやかな歌声で、次代のミュージカルスターのショーケースにもなっていた。