【何観る週末シネマ】移民家族の新たな出会いとその先『ニューヨーク・オールド・アパートメント』
この週末、何を観よう……。映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、1月12日(金)より公開されている『ニューヨーク・オールド・アパートメント』。気になった方はぜひ劇場へ。 【写真】『ニューヨーク・オールド・アパートメント』場面写真 〇ストーリー 幸せを掴むために祖国ペルーを捨て、ニューヨークの片隅で不法に暮らすデュラン一家。母ラファエラはウェイトレスをしながら二人の息子を女手一つで育て、二人の息子のポールとティトも配達員をしながら家計を支えている。しかし不法滞在者である彼らにとって現実はあまりにも厳しく、お金の問題に加え、もし見つかれば国外追放されてしまうという恐怖が常に付きまとう。昼は語学学校に通い、夜はフード配達の仕事をするポールとティトは、市民権もなく何の力も持っていない自分たちのことを「透明人間」と呼び、息をひそめて生きていた。 〇おすすめポイント 夢と希望に満ち溢れた大都市ニューヨーク。そんな陰に生きるシングルマザーのラファエラと、その年頃のふたり息子ポールとティトは不法移民である。とくに不法移民という立場上、問題が起きても警察や病院を頼れないこともあって、息を秘めるかのように生きていくしかない。 母と息子は、ニューヨークで新たな出会いをし、そして恋をすることで少しだけ変化した日常が描かれていくが、その出会いがのちに家族の運命を大きく左右することになっていく。 母に新しい恋人ができたことで、少し距離が空いてしまったかのような不安や寂しさを埋める先を探していた頃、ポールとティトもまた語学学校で新たな出会いをすることに。 それは同じ移民でありながらも、女優やモデルといった華やかな舞台で生きられる可能性を秘めたクリスティン。そんなクリスティンへの憧れと恋心をポールとティトは同時に芽生えさせていくが、クリスティンにも想像を絶するバックボーンがあったのだ。 エンタメの中心地である華やかなニューヨークであっても、その陰には、貧困や不法移民問題などが渦巻いているように、恋愛においても陰と陽の部分が常に存在している。 良くも悪くも、ちょっとした出会いによって、その後の人生が120度変化してしまう可能性もあるわけなのだから。 そんなことは当たり前ではあるのだが、ニューヨークという都市の陰と陽を背景として描くことで、それがより鮮明な対象物として提示されているようにも感じられるのだ。 そしてクリスティンというキャラクターが、まるでニューヨークの陰と陽の部分を擬人化したような存在であることも重なって、目を背けていた現実に無理にでも向き合う機会を与えられた移民家族にどんな結末が待っているのか……。 (C) 2020 - Dschoint Ventschr Filmproduktion / SRF Schweizer Radio und Fernsehen / blue 〇作品情報 監督:マーク・ウィルキンス 原作:アーノン・グランバーグ著「De heilige Antonio」 2020年/スイス/英語、スペイン語/98分/ビスタ/5.1ch 原題:THE SAINT OF The impossible 日本語字幕:佐々木彩生 配給:百道浜ピクチャーズ 2024年1月12日(金)新宿シネマカリテほか全国公開中
バフィー吉川