野木亜紀子が描く“私たちの物語”に浸れる喜び 『海に眠るダイヤモンド』の興味深い構造
百合子・朝子・リナだけではない、『海に眠るダイヤモンド』の女性陣の魅力
『海に眠るダイヤモンド』もまた、興味深い構造をしている。まず、高度経済成長期という活気ある時代を、炭鉱業で栄えた長崎県端島の隆盛を通して描いている。次に、その時代は、戦争が終わって間もない時代であり、舞台の1つである長崎県は原子爆弾が投下され、多くの命が失われた場所であること。そして端島、別名・軍艦島は現在、世界文化遺産に登録され、日本近代化の遺構としてそこにあるということ。この、1955年を起点とした端島の過去・現在・未来を通して私たちが知り得ることは、日本の戦後史そのものだ。そしてそれを、主演である神木隆之介が二役で演じる、現代の東京を無気力に生きるホスト・玲央の目を通して見ることで、視聴者はただ「古き良き時代」を郷愁とともに見つめるだけでなく、彼ら彼女たちの生きる姿の向こうに私たちが生きる現在を見つめることができるのである。 本作において何より魅力的なのは、女性たちの姿だ。第1話で序盤こそリナに対し敵対心を見せていた百合子と朝子は、リナが得意先の重役のセクハラに抵抗したことで窮地に立たされる騒動をきっかけに彼女の味方になり、徐々に友情を深めていく。また、リナが抱えている事情をクリームパフで隠した目の下のアザの存在を言い当てることで察し、それでも「私たち、あの戦争を生き延びたとよ、そう簡単には死ねんさ」と言って励まし、受け入れる職員クラブの管理者・町子(映美くらら)や、「女優になろうかな、女優なら子どもがいなくてもいい」と言う百合子に対し「女優じゃなくともおらんでもよかよ」と言う映画館の館長・大森(片桐はいり)といった、百合子・朝子・リナにとっての人生の先輩たちの姿はどこまでもカッコよくて素敵だ。その中で描かれ続けてきた幼なじみ・百合子と朝子の間にある確執の背景には、きっと百合子にしか分からない物語があるに違いない。 キラキラした端島は「植物の死骸の上に立っとる」と進平は言う。キラキラと輝くように生きる人々にもそれぞれに抱える孤独がある。キラキラしているようで玲央から見ればどこも「ドブ」でしかない現代もまた同様に、輝く何かがあるはずで、いづみに見出された玲央は、彼自身の人生の中に輝く何かを見出すことができるのか。
藤原奈緒