町田・黒田監督に「言われてしまった」 ハーフタイムに喝…常勝軍団へ甘さを許さない徹底した姿勢【コラム】
町田のサッカーは「トーナメントに強い」 J1挑戦1年目で目指すタイトル獲得
しかし、後半もセレッソが優位に立つ展開は変わらなかった。シュート数では4対8と圧倒されたが、福井が8分、15分、27分、42分とファインセーブを連発。勝てなかったが、それでも負けなかった。 青森山田高から異例の転身を遂げた黒田監督のもとで、町田はJ2リーグを制した昨シーズンから失点に対してアレルギー反応を示すチームと化している。セレッソ戦も後半に限れば、福井を中心に失点を拒絶するメンタリティーが発揮された。歯を食いしばる選手たちのプレーに、指揮官も采配で応えた。 後半28分にMFバスケス・バイロンに代えてDF池田樹雷人を投入し、それまでの[4-4-2]から最終ラインを3枚にした[3-4-2-1]にスイッチした。状況によっては5バックになる戦い方を、ディフェンスラインを統率した昌子は、このまま引き分けろという黒田監督の新たなメッセージだと受け止めた。 「僕はそうとらえました。横へのスライドがなくなり、(マークが)少しはっきりした分、僕はどちらかというと目の前のレオ・セアラ選手に集中しました。僕的には3バックになって少し楽になったところはあります」 同時にチームを束ねるキャプテンとして、指揮官の喝をさらなる成長への糧にしたいと前を向いた。 「選手のなかでそれ(喝)を『ああ、言われてしまった』となって、自分たちから崩れていくのが一番よくない。後半はちょっと守る時間の方が多かったけど、結果的に追加点を与えなかったのはプラスになる。今日だけで言うと勝っていないので、そこは僕たちも反省しないといけない。これがリーグ戦だったら勝ち点1なので」 殊勲の福井は「次のラウンドへ向けてポジティブに修正できる」とセレッソとのプレーオフを振り返りながら、ハーフタイムのロッカールームで黒田監督からかけられた言葉をあらためて思い出している。 「これからJ1で常勝軍団になるには、こういう試合展開で2失点しているわけにはいかない。リーグ戦でも同じ展開だったら多分飲み込まれている、とも言われました。町田が志向するサッカーはトーナメントに強いと僕は思っているので、ここまで来たらタイトルを狙いたいし、狙える位置にいると受け止めています」 初めて戦うJ1リーグ戦では17試合を終えて鹿島と勝ち点で並び、得失点差で上回って首位に立っている。同じく初挑戦のルヴァンカップでもベスト8進出を果たし、12日には天皇杯初戦で筑波大学の挑戦を受ける。 「(2戦合計で)2点のリードは残り5分くらいの時点でいきてくる。それまではあってないようなものなので、2点のアドバンテージは頭の片隅に置いて勝ちにいくとハーフタイムに厳しく指摘しました。相手も点を取りにきたなかで耐える時間帯も多かったですが、途中から入った選手たちを軸に後半を無失点に抑えることを実践してくれた。次のステージに進めなかで反省材料も多い。今後の天皇杯やリーグ戦で改善していきたい」 こう語る黒田監督は、目の前の戦いで凡事徹底を貫く。甘さやぬるさ、緩さのすべてを排除しながら勝者のメンタリティーをはぐくんだ先に思い描くのは、常勝軍団へ進化を遂げる町田の近未来像。セレッソ戦のハーフタイムに入れた喝は一時的な感情の高ぶりではなく、壮大な目標へ突き進んでいく上でのマイルストーンとなる。 [著者プロフィール] 藤江直人(ふじえ・なおと)/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。
(藤江直人 / Fujie Naoto)