生まれて初めての“肉体関係”が中年女性の人生を変える 各国の映画祭を席巻した話題作
ジョージアの村に暮らす48歳のエテロ(エカ・チャヴレイシュヴィリ)は、日用品の店を営みながら一人で生きてきた。が、あるとき人生で初めて男性と肉体関係を持ってしまう。そして彼女の人生は変わり始めて──。オフ・ビートなテンポで女性の生き方を綴り各国の映画祭を席巻した話題作「ブラックバード、ブラックベリー、私は私。」。エレネ・ナヴェリアニ監督に本作の見どころを聞いた。 【写真】この映画の写真をもっと見る * * * 私はジョージアに生まれ、社会から一歩身を引くように育てられました。23歳で国を離れて初めて自分の声をあげることができる場所があると知ったのです。本作の原作者タムタ・メラシュヴィリはジョージアの作家でフェミニスト活動家です。私は以前から彼女の作品のファンでしたが、特にこの物語に惹きつけられました。主人公エテロと彼女を取り巻く人々が、ジョージアに限らず誰にとっても自分の周囲の人──母や女友達、コミュニティーの女性たちに重なるのではと感じたからです。 かつて厳格な父と兄のもとで暮らしたエテロは48歳で初めて男性ムルマンと関係を持ち、性に目覚めます。彼女はその経験で新たな自分に出会うことができたのだと思います。社会のルールに則り、いい娘や妹でなければいけない、と思ってきた彼女が「自分の生きたいやり方で生きていい」ということを再認識したのです。 二人が愛を奏でる場面は俳優と多くの話し合いを重ねました。もちろん納得して演じてくれましたが、おもしろいなと思ったのがエテロ役のエカが割と「バン!」とやってくれたのに対して、ムルマン役のテミコ・チチナゼは「誰がこんなおじさんの裸を見たいの?」とやや抵抗していたんです。あれ、男性って意外とそういうところがあるんだ、と思いました。完成した映画を観て「撮ってよかった!」と言ってくださいましたが。 劇中に大きめの街で女性カップルが仲良く一緒に仕事をしているシーンがあります。しかし実際のジョージアではあんなことは起こりません。批判されてしまいます。私は映画という手法を使って「こういう人たちもいるのですよ」と発信し、家父長制や男性中心、異性愛主義の社会に挑戦のメッセージを投げかけているのです。 (取材/文・中村千晶) ※AERA 2024年12月23日-2025年1月6日合併号
中村千晶