『silent』級の感動が再び…月9新作『海のはじまり』に最大の注目が集まる「納得の理由」
最終話、生方美久氏の言語化能力に感嘆
筆者が生方氏の言語化能力に、特に感嘆したのは最終話の夜々のセリフ。 「好きな人たちに、自分がなにを嫌いなのか知ってもらったら、すっごい生きやすくなった」 この言葉は言われればハッとして「なるほど」と納得する真理ですが、自覚したり言葉にしたりするのはなかなか難しい感覚ではないでしょうか。 また生方氏は本作で、価値観の多様性だけでなく、さまざまな物事に対して無数の価値観があるのだということも伝えており、視聴者に“気付き”を与えるのも実に巧み。 第1話でゆくえは男友達から、「男女の友情」に否定的な結婚相手に反対されたため、もう会うことができないと告げられていました。結婚相手は「男女の友情」に肯定的なゆくえとは違う価値観の女性キャラというわけです。 しかし、最終話で男友達の妻が“ゴミ袋を入れていた袋”を、ゴミ袋として再利用するタイプだと判明。日常生活における非常に細かい描写ですが、実は第6話でゆくえも同じようにしており、“ゴミ袋の袋”についての価値観は合致していたことが視聴者に明かされます。 “ゴミ袋の袋”へのこだわりはとても些細なことですが、このシーンが意味しているのは、さまざまな物事に対して人それぞれの価値観があるということだったように思います。ある部分で価値観が合わなかったとしても、その二人は全くソリが合わないなんてことはなく、感性が合う部分はたくさんあるかもしれない――ということを示していたのではないでしょうか。 連続ドラマデビュー作となった『silent』がいきなり社会現象級のヒットとなったわけですが、生方氏は2作目で気負ってフォームを崩すなんてことはなく、自分の伝えたいメッセージを丁寧に物語に込めていました。 『いちばんすきな花』で再び上質な物語を紡いだことで、まぐれで『silent』を当てた一発屋ではないことを証明して見せたのです。
最新作『海のはじまり』は“親子の愛”
ドラマ業界では脚本家本人にネームバリューがあり、「あの人の新作だから観たい」というファンがつくのは三谷幸喜氏、宮藤官九郎氏、坂元裕二氏などほんの一握り。 ですが生方氏は連ドラデビューからまだ2年にもかかわらず、そんなキャリアの長い大御所脚本家たちに近付きつつあります。 さて、最新作『海のはじまり』は、生方氏にとって初の月9登板。『silent』で聴覚障害者の青年を演じてブレイクした目黒蓮さんとの再タッグという、万全の体制で臨んでいます。 『silent』で“障害者との純愛”、『いちばんすきな花』で“男女の友情”をテーマにしてきた生方氏が、『海のはじまり』で描くのは“親子の愛”。 目黒さん演じる主人公は、大学時代の彼女に突然別れを切り出されて破局。その後、7年間一度も会うこともなかった元彼女が亡くなったことを知らされます。そして、元彼女には幼い娘がおり、なんとその少女が自分の子どもだということが明らかに……。 突如、自分が“父親”になっていたことを知った主人公が、自分の人生に現れた“娘”とどう向き合っていくのか、亡くなった元彼女であり“母親”にどのような想いを馳せるのか。“親子の愛”を通して描かれる家族の物語とのことで、『海のはじまり』が生方氏の新たな代表作になる予感大です。 ――脚本家の新星・生方美久氏には、日本のドラマ業界を再活性化させるためにも、これからも個性的な「生方ワールド」を創り出していってくれることを期待しています。
堺屋 大地(恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー)