焼き畑で育つ福井の伝統野菜「河内赤かぶら」 ── おいしく食べて次につなぐ
こぶしほどの大きさの赤いかぶらに包丁を入れると、鮮やかな赤いサシが入っていた。その切り口は、まるで牡丹(ぼたん)の花びらのようだ。ちょっとひと切れを手に取り、口に入れると固くて苦い。800年以上もの昔から続く、焼き畑農法で作られた“原始的”な野菜。福井市の上味見地区で作られる「河内(こうち)赤かぶら」だ。
上味見地区は、2006年に福井市と合併する前は美山町にあった。福井市の中心部から自動車で東へ約40分の深い山里。この場所を訪れた日は、あいにくの北陸らしいどんよりとした雪の天気だった。晴れていたなら、遠くまで里山の風景が望めたに違いない。 「河内赤かぶら」の畑は平地部ではなく、山を分け入った急斜面にある。もちろん平地でも育つのだが、山で作った方が色や味が濃いのだという。高倉博雄さん(75)の畑もそんな場所にある。本来、雪が降る前に収穫するのだが、この日は都市部からやってくる若者の収穫体験のためにいくつか残していた。 収穫体験のかぶらの栽培は半年前に始まった。7月下旬に下草刈りをし、8月の一番暑い時期に焼き畑を行って種をまく。急斜面での作業は重労働だ。過疎化と高齢化で栽培農家は減少。高倉さんによると、栽培農家はわずか6戸なのだという。「伝統を受け継ぐ者の誇りのようなものでしょうか。普通の大根なら栽培を止められるが、伝統ある野菜だから止められないのです」と高倉さんはしっかりとした声で話した。
福井では100年以上の歴史がある野菜を「伝統野菜」と呼んでいる。同県内には「奥越さといも」(大野市・勝山市)、京都の賀茂なすのルーツとも言われる「吉川なす」(鯖江市)など50ほど種類があるという。「河内赤かぶら」は平家の落人が800年以上も前に栽培方法を伝えたとも言われる伝統ある野菜だ。 昔はどこにでもあった伝統野菜が廃れたのは、戦後高度成長期あたりからと言われる。味覚や見た目がよい、消費者の嗜好に合うよう改良された品種だけが残り、伝統野菜は姿を消しつつあった。しかし、ここ10年ほど伝統野菜が、種の保存や地域ブランドの観点から全国的に脚光を浴び、復活の兆しが出てきたのは関係者にとって喜ばしいことだ。