投資する不動産のタイプや質を把握して、J-REIT各銘柄の特徴をつかむ
日本版不動産投資信託(J-REIT)の収益性と安定性を決めるのは、第一に投資する不動産そのもののタイプと質、第二に財務戦略です。 今回は、そのうち第一のポイントである投資する不動産について、ミリタス・フィナンシャル・コンサルティングの田渕直也さんが解説します。
投資する物件による性格の違い
不動産の収益性や安定性を決める要素としては、用途、立地、建物のグレードなどがあります。J-REITが投資対象とする不動産の用途は、大まかに分類すると、以下のようなタイプのものがあります。それぞれの簡単な特徴も併記しておきます。 オフィス 景気動向につれて賃料や空室率が上下する傾向があり、景気に敏感。好立地でグレードの高い物件は、安定性も高い。 住居 景気動向の影響をあまり受けず、立地に応じて賃料や空室率は安定的に推移する傾向がある。その代り、賃料が大きく上昇する可能性が低い。 商業施設 賃貸契約の内容や大口テナントの有無で性質が変わる。大口テナントがいて、長期固定賃料で賃貸する場合は、景気動向に左右されずに安定的な収入を期待できるが、その大口テナントが退去したときに稼働率が一気に落ちるリスクがある。小口テナントに分散している場合はそのようなリスクは限られるが、その代わり景気動向の影響を強く受けるようになる。 物流施設 一般に大口テナントとの長期固定契約が多く、比較的収益が安定している。ただし、大口テナントの退去リスクが伴う。 ホテル 立地、他のホテル・宿泊施設との競合状況、ホテルの運営を手掛けるオペレーターの経営手腕などに大きく左右される。一般に賃料収入はホテルの稼働率や宿泊料に応じて変動することが多いので、景気にも敏感。 ヘルスケア施設 景気動向による影響をほとんど受けず、安定的。オペレーターの運営能力に影響を受ける。
不動産の質と収益性
次に、不動産の質(立地やグレード)と収益性の関係を考えてみましょう。 以前に、NOI利回りの話をしました。空室リスクを見込んだ賃料収入から、物件の維持管理費用を差し引いたものがNOIで、それを物件価格で割ったものがNOI利回りということでした。このNOI利回りは、キャップレート(※)とも呼ばれます。 ※Capitalization Rateの略。厳密には、商業用不動産に投資をしようとする投資家が、その不動産に対して求めるNOI利回りの要求水準のこと。還元利回りともいう。 不動産投資家は、物件の用途、立地、グレードなどに応じて、「この物件ならば、このくらいのNOI利回りが欲しい」と考えながら投資を決定していきます。その際、その投資家が支払ってもいいと考える価格は、一番簡単な式で表すと以下の式で算出されます。 物件価格 = 予想NOI ÷ キャップレート このキャップレートは、以下のような条件を満たす場合に低くなっていきます。 ・物件の立地やグレードがよく、空室リスクが低い ・賃料が将来上昇していくことが見込まれる つまり、収益の安定性が高く、将来の賃料上昇が見込める物件に対しては、不動産投資家は多少NOI利回りが低くても投資したいと考えるわけです。不動産の取得希望価格は、〔NOI÷キャップレート〕ですから、キャップレートが低くなれば価格は高くなります。要するに、「良い物件は値段も高い」ということですね。 たとえば、オフィスで最優良とされるのは、大手町や丸の内界隈の大型オフィスビルですが、これらの物件は人気が高く、その結果としてキャップレートは非常に低くなります。 一方で、地方都市の物件など、空室リスクが高いと判断されたり、将来の賃料上昇が見込みにくい物件では、人気が集まらないので価格は低く、キャップレートは高くなります。 このように、キャップレートの水準は、不動産に対する投資家の評価を反映し、評価が高いものほど低くなるのです。