1週間泊まり込みで家事や介護…60代家政婦の急死は「労災」、遺族が逆転勝訴「多くの方を幸せにする判決だ」 東京高裁
●裁判所の判断
裁判では、主に女性がおこなっていた家事業務と介護業務が一体として会社の業務と言えるかどうかが争われた。 遺族側は「家事と介護の業務は一体として会社の業務だった」と主張。一方、国側は「介護業務については会社の指揮命令下だったが、家事業務については要介護者の息子との間で締結された雇用契約に基づいておこなわれていた」とし、労基法上の「家事使用人」にあたると反論していた。 東京地裁は2022年9月、「家事業務は、要介護者の息子との間の雇用契約に基づき提供されている」と判断。会社の業務と認定しなかったため、労災も介護業務部分だけを対象とし、「介護業務の総労働時間は1日4時間半にとどまる」として業務との因果関係を認めなかった。 一方、東京高裁は「家事業務および介護業務は、(女性の勤務先である)会社との間における雇用契約に基づくものであり、一体として会社の業務ということができる」と認めた。「家庭内の私的領域に国家的規制や監督を行うことが不適切であるという労基法116条2項の趣旨は妥当しない」として、女性は、介護業務だけでなく、家事業務についても「家事使用人」に当たらないと結論づけた。 女性の疾病発症と死亡結果の発生が業務に起因するか否かについては、女性は1日15時間労働を7日間続けていたなどとし、「短期間の過重業務」に該当すると判断。また、低温サウナの利用等が主たる原因となって疾病が発症したものとは認められないとし、「業務起因性」を認め、死亡は労災であるとして不支給決定を取り消した。
●家事使用人に労基法の適用なし「悪法です」
遺族側代理人の明石順平弁護士は、女性のような働き方における業務のあり方について、「同じ家でサービス提供するうえで、介護と家事を厳密に分けるなんてできません」と指摘する。 「同様のサービスを提供する会社の多くは、家事部分に関する労基法の適用を免れようとするためか、介護業務と家事業務を形式的に分けているようですが、『それはダメですよ』という判決だと思います」(明石弁護士) 指宿弁護士も「当たり前の結論だが、これまで同じような判決はなかった」と述べ、「『家事使用人に労基法を適用しない』という規定を変えるべきという議論が、いっそう加速すると思います」と法改正に期待を寄せた。 女性の夫も、家事使用人には適用がないとする労基法について、「はっきり言って悪法です。法律を長年放置してきた国は何をやっていたのか。速やかに改正してください」とうったえた。