この映像美は“京都の職人芸”である 改めて語りたい「京アニ」の作画力 「楽器演奏、筋肉美を描く技術が…」
京都に根づくものづくり精神
歴史や伝統、日本文化が豊かに残る京都。そこは世界に誇る観光都市として魅力的であるだけでなく、古くは平安、鎌倉の時代から専門的な職人が工房に集い、西陣織、友禅染、京焼など高品位で芸術的な伝統工芸品をつくり、京都独自の高い技術と職人の細やかな心づかいを今に伝える“ものづくり”の都だ。 【画像】『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の作画力の高さ その京都のものづくり精神は、京都府宇治市に本社とスタジオを置き、世界中のアニメファンから技術力、表現力を絶賛される制作会社「京都アニメーション」(以下、京アニ)の作品にも脈々と息づいている。
限りない細部へのこだわり
京アニ作品最大の魅力は、アニメーションの生命線ともいえる丁寧で技術力の高い作画クオリティにある。例えば、軽音楽部を舞台に女子高生バンドの温かな日常を描く『けいおん! 』。京アニはキャラクターが体を揺らしながら楽器を演奏するリアルなライブシーンを、丁寧な手描きアニメで表現し驚かせた。 再現の難しい楽器演奏シーンを見事に描いたという意味では、吹奏楽を題材にした『響け! ユーフォニアム』シリーズも、作画の素晴らしさを堪能できる作品だ。滑らかで細かい指の動き、キャラクターごとに異なる管楽器のブレスのタイミング、奏者同士のアイコンタクトなど、吹奏楽経験者も驚くこだわりを、惜しみなく描き込む。 男子水泳部が舞台の『Free! 』シリーズでは、アニメーション表現が難しい“水”と水泳選手の躍動する筋肉美を描き、高校弓道部員の青春群像を描いた『ツルネ』シリーズでは、“静”と“動”が交錯する弓道の魅力とキャラクターの心情を、細やかな作画や光の表現によってビビッドに照らし出す。
丁寧に描かれる人間ドラマ
京アニの作画について語りたくなる作品は枚挙にいとまがないが、どの作品も、一つひとつの所作がキャラクターの心情や状況を反映し、こだわりの映像美へと昇華されている点は特筆に値する。 ではなぜ京アニは、そんなハイクオリティの作画をずっと維持できているのか。それは概ねの制作工程を自社で行い、作品の統一感や細部の表現の美しさを高いレベルで保てるからだ。京都の伝統工芸と同じように、高度な職人的技術と、ものづくりへのストイックな精神を綿々と継いでいるからに他ならない。 そんな“京アニ美”の極致といえるのが『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』シリーズだ。厳しい戦時下で冷徹な兵士として育てられ、愛を知らずにいた少女・ヴァイオレットが、依頼人の手紙を代筆する「自動手記人形」の仕事に就き、代筆依頼者との心の触れ合いを通じて、さまざまな愛を知っていく、感動ファンタジーだ。 風に吹かれるヴァイオレットの髪の毛の一本一本のたなびき、細やかな目線の動きと瞳のゆらめき。落ち着いた色彩と豊かな光の表現に包まれた重厚な街並みを背景に、人物の繊細な感情や精神的成長を表現するデリケートな仕草と表情を映す『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、作画の見事さだけでなく、映像そのものがアートとして完成度が高い。そこにまた驚かされる。 しかも、その映像美は“映像を見せる”ためだけにあるのではない。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』に限らず、題材の内容やシリアス、コミカルという作品性を問わず、京アニ作品は、美しい映像だからこそ、観る者の心にキャラクターの人間ドラマが迫ってくる。変化する心の襞に丁寧に寄り添い、日本的な情緒に満ちた温かさを描き出してくれる。そこにも、美意識高く人のぬくもりの大切さを忘れない、京都らしい文化の香りを強く感じることができるのではないだろうか。 流行に左右されることなく、京都という土地にしっかりと根を張って独自の感性と職人的技術を磨き、進化し続ける京アニの作品は、熱心なアニメファンでなくとも心惹かれるものばかりだ。ぜひ一度、体感してほしい。 阿部美香(あべ・みか) 音楽、本、声優、アニメ、アニソンなどサブカルチャー分野を中心に取材、執筆活動を行う。初めて衝撃を受けた京アニ作品は『涼宮ハルヒの憂鬱』。先見的で良質な音楽に力を入れているのも京アニの魅力!
阿部美香