海上自衛隊の海難救助のプロ 日々厳しい訓練に臨む若手救助隊員を取材【徳島】
JRT四国放送
海での人命救助といえば海上保安庁の潜水士「海猿」が広く知られてますが、実は海上自衛隊にも海難救助のプロがいます。 徳島県小松島市の海上自衛隊基地で海難救助などに備えて、日々、厳しい訓練に臨む若手救助隊員を取材しました。 敵の侵入を警戒する、哨戒ヘリコプターを駆使して徳島近海を防衛する海上自衛隊第24航空隊。 コールサインは「シャドー」、「敵を影のように追跡する」最前線ヘリ部隊のひとつです。 (石井隆智アナウンサー) 「小松島市の第24航空隊に配備されているのが、こちらSH-60K海上自衛隊の主力ヘリコプターです」 配備されているヘリは「SH60-K」、高性能のソーナーを装備し、外敵の潜水艦への警戒と災害や海難事故への対応が主な任務です。 小松島市和田島町に基地を置くこの部隊にはパイロット・整備士など400人が所属していますが、その中でたった4人しかいない救助のスペシャリストたちがいます。 「サバイバー視認中、進入開始する」 彼らはヘリコプターから体ひとつで海に飛び込み人命救助を行う「機上救護員」、通称「メディック」と呼ばれ、2022年の5月から小松島に配置されています。 荒れた海をものともせず、命がけで任務に臨む隊員に密着しました。 歯を食いしばりながらトレーニングに励んでいるのは、第24航空隊最年少メディックの平田雄飛2等海曹です。 (メディック(機上救護員)平田雄飛2等海曹(30)) 「自分が行った処置で助かる命がある。やっていることの難しさや責任、やりがいはすごく感じる」 平田2曹は沖縄県出身の30歳、長崎の大村基地でメディックの基礎を学んだあと硫黄島航空分遣隊を経て、2023年1月に第24航空隊に配属されました。 ※訓練中 「武力攻撃を受けた護衛艦の重症者1名を機内に収容し、現在自衛隊病院に向け搬送を開始したところである」 (メディック(機上救護員)平田雄飛2等海曹(30)) 「分かるか?話せるな、了解。出血部位の確認」 平田2曹は救急救命士と准看護士の資格を併せ持っていて、緊急性が高い場合はヘリの中で一定の医療行為を行うことができます。 メディックはトレーニングで体力を強化するだけでなく、日々進歩する医療の知識も学び、常に2刀流であることを求められます。 (メディック(機上救護員)平田雄飛2等海曹(30)) 「ヘリという狭いスペース、または騒音の中で行う緊急的な処置。実際の人にはまだしたことは無いが、いつ発生しても良いように、日ごろの訓練を頑張っている」 1人前のメディックになるには、近道はありません。 医療の勉強や筋力トレーニングを繰り返し行うことが、災害現場での対応力に繋がります。 (メディック(機上救護員)平田雄飛2等海曹(30)) 「(Q.もともと水泳部だった?)それが水泳とかまったくやっていなくて、(学生のころは)バスケットをやっていた。すごいきつかった、最初は」 日々、このような厳しい訓練に臨む平田2曹のモチベーションは? (メディック(機上救護員)平田雄飛2等海曹(30)) 「海上自衛隊では金曜日にカレーを食べる。妻が作ってくれました、愛妻カレーです」 毎日弁当を作ってくれる妻の存在、2024年2月には第2子も誕生、家族の支えが訓練の疲れを癒しています。 (平田2曹の先輩) 「(Q.怒ったりするんですか?)怒ったりしたいんですけど、優秀過ぎて鼻につきます」 配属されてまだ1年あまりですが、仲間の隊員からの信頼をすでに得ています。 (メディック(機上救護員)平田雄飛2等海曹(30)) 「常に過酷な環境の中で(任務を)実施するので、日ごろのトレーニングの成果や負傷者に対する接し方を一番重点を置いて、訓練に臨んでいる」 大雨と強風に見舞われたこの日は、実際の海難事故を想定した救助訓練が行われます。 平田2曹にとっては、日ごろのトレーニングの成果やスキルアップの確認ができるいい機会です。 悪天候ということもあり、出動前には入念にミーティングが行われました。 (ヘリパイロット 森谷浩敏機長(3等海佐)) 「日ごろの訓練の成果を悪い環境下の中でも実施できるように、しっかりと一つ一つ基本に忠実に実施してもらいたい」 海難事故による救助要請は、悪天候の時に確率は高くなります。 訓練の舞台は、阿南市の伊島沖で行われました。 オレンジ色のライフジャケットを着た要救助者に見立てたダミー人形を、ヘリに収容する訓練です。 「進入準備良し」 「了解、進入開始する」 雨風も強く、揺れが激しいヘリからワイヤー1本で海に着水します。 「接水」 海に入ると身体からワイヤーを切り離し、すぐに要救助者の下へ向かいます。 酸素ボンベなどの装備は身に付けず、シュノーケルで荒れた海を泳ぎます。 (メディック(機上救護員)平田雄飛2等海曹(30)) 「泳いでいるときは、いち早く救助者のほうに行くことだけ考えている。無我夢中」 要救助者のもとまですぐにたどり着くことができましたが、波のうねりが強く体力がどんどん奪われていきます。 厳しい状況の中、ワイヤーと人を連結させる作業を冷静に進めることができました。 「まもなく上げる」 「容収開始」 「あと10フィート」 着水してからわずか5分、無事に要救助者を引き揚げました。 (メディック(機上救護員)平田雄飛2等海曹(30)) 「いつどこで何が起こるか分からない。特に四国については南海トラフであったり、すごい被害状況が予想される。最善を尽くせるように、日ごろの準備を怠らないようにしていきたい」 能登半島地震から4か月近くたちますが、地震や津波など災害への危機感はますます高まっています。 一人でも多くの命を助けるため、メディックは日々厳しい訓練に挑んでいます。 (メディック(機上救護員)平田雄飛2等海曹(30)) 「全国にメディックはいるが、その中で平田がいればこの基地は安全だと思ってもらえるような存在になれるように頑張りたい」