UAE戦黒星で浮かびあがったハリルJ3つの課題
後半アディショナルタイムが4分間も提示されていたというのに、メインスタンドで観戦していたファンやサポーターの一部が席を立ち、出口へと列を作り始めた。 1点を追う日本代表が猛攻を仕掛けていても、ゴールの予感が漂ってこないからか。交通の便が劣悪な埼玉スタジアムが会場であり、なおかつ翌日がウイークデーだったこともあって、仕事や学校に備えて早めに家路に着くことを選択させたのだろう。 悲しいかな、彼らが抱いた失望感は現実のものとなる。189cmのDF吉田麻也(サウサンプトン)をパワープレー要員として前線に上げた直後に、試合終了が告げられる。UAE代表をホームに迎えた9月1日のW杯アジア最終予選。ロシアの地を目指す開幕戦で、まさかの黒星を喫した。 試合後の公式会見。疲れ果てた表情を浮かべながら、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督はアジア最終予選で実に19年ぶりにホームで味わわされた敗戦を受け入れた。 「この結果で現時点での我々の実力が示された。我々が望んだプレーを実行できなかった」 先制したのは日本だった。前半11分に右サイドで獲得したFK。ファーサイドを狙ったMF清武弘嗣(セビージャ)のクロスを、MF本田圭佑(ACミラン)が頭で押し込んだ。 しかし、9分後に直接FKを決められて同点とされると、後半9分にはPKを献上。ともにキャプテンのFWアハメド・ハリルにゴールネットを揺らされ、攻めては22本ものシュートを放ちながら最少得点に終わった。 ボール支配率が62.8%に達しながら、ホームでなぜ苦杯をなめてしまったのか。90分間を通して浮かび上がった課題は3つ。まずはハリルホジッチ監督のチームマネジメントの“拙さ”だ。 指揮官はキャプテンの長谷部誠(フランクフルト)と組むボランチに、リオ五輪で出色のプレーを見せた23歳の大島僚太(川崎フロンターレ)を抜擢した。A代表デビュー戦がアジア最終予選、それも大きな重圧がかかる開幕戦となるのは大島が初めてとなる。 同点シーンからさかのぼっていくと、大島のプレーに行き着く。右サイドバックの酒井宏樹(マルセイユ)へ出したパスのスピードが遅く、相手にカットされそうになったところで酒井が半ば強引に中央へ蹴ってピンチを回避しようとした。 しかし、ボールは日本が警戒していた司令塔のオマル・アブドゥルラフマンへ。すかさずカウンターが発動され、オマルのパスに抜け出したFWアリ・マブフートを吉田が倒してしまった。 試合後の取材エリア。吉田は「能力が高いのはわかっている」と大島を認めた上で、あえて厳しい注文をつけている。 「川崎でやっているようなゆっくりとしたテンポではなくて、もっと速いテンポでリズムを作れるようなパスを配給してほしい」 決勝点となったPKも、大島のファウルで与えている。競り合った際に伸ばした右足にMFイスマイール・アルハマディが巧みに引っかかったようにも見えたが、大島にとってはまさに悪夢のデビュー戦となってしまった。 もっとも、これで大島を責めるのは酷だろう。本人は「みんながすごくポジティブな声をかけてくれたので、そこまで緊張はしなかった」と必死に前を向いたが、初招集した6月のキリンカップでデビューさせていれば、パススピードなども含めた経験が大島の引き出しに備わったはずだ。 中堅やベテランでも、アジア最終予選の初戦はプレッシャーがかかる。甘いと思われるかもしれないが、配慮に欠けたと言わざると得ない。指揮官は会見で「私を批判してほしい」と大島をかばったが、黒星に対する責任感が世代交代を担うホープのトラウマにならないことを祈るばかりだ。