『光る君へ』吉高由里子の“感情の重なり”をもたらす名演 ラストに倫子の強烈な一言も
『光る君へ』(NHK総合)第47回「哀しくとも」。まひろ(吉高由里子)たちは異国の海賊との戦いに巻き込まれ、敵の攻撃で、周明(松下洸平)が倒れる。朝廷にも攻撃による被害状況が伝わるが、摂政・頼通(渡邊圭祐)は対応に動かなかった。頼通は太閤・道長(柄本佑)への報告も止めてしまうが、海賊との戦いを指揮する隆家(竜星涼)は実資(秋山竜次)にも文を出しており、実資を通じて、道長も異国の脅威を知る。 【写真】死の最期にまひろ(吉高由里子)を見つめた周明(松下洸平) 大宰府にて周明と思いもよらない再会を果たしたまひろだったが、別れは突然だった。まひろの悲痛な叫びに心が張り裂けそうになる。 まひろが涙をボロボロと流しながら周明のそばを離れようとしないのを見て、第1回で描かれた死を思い出した。まひろの母・ちやは(国仲涼子)は道兼(玉置玲央)によって命を奪われた。あの時も、まひろは目の前で大切な人を失った。まひろと道長の人生に多大な影響を及ぼした直秀(毎熊克哉)の死も胸を締め付けられるようなものだったが、自分の目の前で人が命を落とすことほどつらいものはない。まひろと周明は、越前で別れた後の20年もの年月を埋めるように心を通わせていた。まひろが「私はもう終わってしまった」と心の内を明かした時、「これから違う生き方だってできる」と訴えかけた周明の存在は大きい。 まひろを演じる吉高の傷心した面持ちや佇まいから、目の前で大切な人を失う衝撃の大きさがうかがえた。大宰府の政庁に戻ったまひろだが、心の傷がそう簡単に癒えるはずがない。まひろのもとへやってきた隆家は「俺もいろいろあったが、悲しくとも苦しくとも人生は続いてゆくゆえ、しかたないな」と言葉をかけるが、まひろは「周明と一緒に、私も死んでおればよかったのです」と口にする。その力ない物言いが切なかった。隆家から「周明のことは無理に忘れずともよいのではないか」「ここにずっといてもよい」と優しく声をかけられ、こらえきれずに涙を流す姿もまた、悲しさがひしと伝わってくる。 第47回での吉高の演技は、時間の経過とともに感情の重なりが感じられて奥深い。双寿丸(伊藤健太郎)がまひろのもとを訪れた時、隆家が大宰権帥の役目を終えて都に戻る時、まひろは、少しずつではあるが、哀しくとも苦しくとも続いていく自分の人生を受け入れていた。 もちろん、周明の死という心の痛みが完全に取り払われたわけではない。たとえば双寿丸に対する「武功を立てるとは、人をあやめることではないの?」という問いかけは、その台詞を発した吉高の真剣な表情もあいまって、目の前で誰かの命が奪われることへの痛みを知っているからこそ発せられたものだと分かる。双寿丸から「殺さなければ、殺される」「敵を殺すことで民を守るのが武者なのだ」と返され、まひろは顔を曇らせるが、「あんたも早く健やかになってくれ」「そうでないと、周明とて成仏できないぞ」という言葉は、難しい顔をしつつも受け止めていた。 隆家や双寿丸、乙丸(矢部太郎)の言葉を受け、まひろを演じる吉高が見せた顔つきには、周明を弔うためにここにい続けたい気持ちと、「まだ命はある」「書くことはどこででもできる」と言ってくれた周明のために人生を歩み続けなければという気持ちがあることを感じさせる。乙丸の「帰りたい!」という直球な感情表現に気圧されて、まひろは思わず笑ってしまうが、この時、後者の思いが優ったのだと思えた。 とはいえ、まひろの無事を喜ぶ家族の前でも、彰子(見上愛)の前でも、旅の話をすることはできなかった。為時(岸谷五朗)や彰子から大宰府での出来事を問われる場面で、吉高は気まずそうに視線をそらしたり、顔をこわばらせたりしていた。しかし周明の死を想起させるその演技があるからこそ、“哀しくとも”人生を歩み続けるまひろの姿がありありと感じられる。 物語の終わり、まひろは土御門殿で道長と顔を合わせる。道長が出家する前、「会えたとしても……」「これで終わりでございます」とまひろは別れを告げていた。2人は言葉もないまま見つめ合う。倫子(黒木華)がまひろを呼んでいると女房が知らせに来たこともあり、2人は言葉を交わすことなくその場で別れるが、道長がまひろの無事を感じ入っていたのと同じように、まひろもまた目の前にいる道長を見て、どこか安堵したはずだ。 そんな第47回は、倫子が唐突にまひろと道長の関係について尋ねて幕引きとなった。 「あなたと殿はいつからなの?」 「私が気付いていないとでも思っていた?」 いよいよ次週、『光る君へ』は最終回を迎える。倫子の問いかけに、まひろは何を話すのだろうか。
片山香帆