ウォルマートの植物工場への4億ドル出資、ファミリーマートの「ファミマシー」 高効率実現のための差別化戦略とは?
産業横断の戦略構想、新たなビジネスモデル創造などの重要性が高まる時代には、あらゆる業種において“創造と変革”を推進するリーダーが求められる。本連載では、世界有数の戦略コンサルティングファームA.T. カーニーの日本のメンバーが、国内19の業種における最新トレンドを分析した『A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2025』(A.T. カーニー編/日経BP 日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。「小売」「エネルギー」に加え、業界横断のテーマ「M&A」にフォーカスする。 小売企業が勝ち残るための4つの視点 第3回は小売業界(第14章:中川健太・小林洋平・関灘茂著)を取り上げる。「商品開発・MD(商品政策)」「店舗形態・フォーマット」の2つの視点から、小売企業の勝ち残りのヒントを探る。 ■ 小売業界が置かれている状況 小売業界が置かれている状況は、日々目まぐるしく変化しています。例えば、円安、原油高、光熱費の高騰等を背景とした、原材料費・仕入れ値の高騰や、人手不足に加え、燃料費の高騰を背景とした物流費の上昇は、各社の利益率を圧迫しています。 また、スーパー等の一部業態が享受したコロナ特需がひと段落し、ドラッグストアを除き、主要小売業態の店舗数は成長が鈍化~横ばい傾向で推移しており、全業界に通底する人口減少・少子高齢化のマクロトレンドに鑑みても、国内でのリアル店舗の出店による売上成長は限界を迎えつつあります。 本章では、このような状況下で、小売企業が勝ち残っていくためのヒントとして、「(1)商品開発・MD」「(2)店舗形態・フォーマット」「(3)地理的拡大」「(4)新ビジネスモデル」の4つの視点で、これまでの小売企業の試行錯誤と、その背景にあるメカニズムを考察するとともに、これからの進化の方向性についての見立てを提示したいと思います。
■ 商品開発・MDの最先端・試行錯誤とその背景にあるメカニズム これまでの小売企業における商品開発・MDによる差別化の歴史を振り返ると、その出発点は、商品の仕入れによる差別化でした。ここでは、他店では手に入らない商品をいかに仕入れるかが差別化のポイントでした。その後、CVS/SM/DGSをはじめとするコモディティを扱う小売におけるNB品のMDは同質化し、次第に各社がPB品の強化へとシフトしていきました。 今後のPB品開発という観点では、特にCVS/SM/DGSの領域において、惣菜カテゴリの商品開発・MD力が差別化要素として、ますます重要になっていくものと見立てます。その理由は、大きく2つあります。 第一の理由は、惣菜は売上構成比が高く、目的買い商品になりやすいカテゴリの中でも、まだ品質差による差別化余地が残されたカテゴリである点です。 CVS/SM/DGSにおける主要カテゴリに目を向けると、日配品・惣菜を除く、ドライ・チルドの飲料・食品領域は大手NB品メーカーのプレゼンスが高く、各社が商品開発に投資してきた結果、味や他の知覚品質要素におけるメーカー・商品間での差は小さくなっています。 また、衣料用洗剤に代表されるような日雑・トイレタリー領域においても、内資・外資のFMCGメーカーのNB品のプレゼンスが高く、日々RN品・新商品が次々に投下され、小売企業にとっては知覚品質差をつくりづらいカテゴリでしょう。他方で、惣菜カテゴリは、相対的にはNB品メーカーのプレゼンスが低く、原材料・レシピ・調理/加工技術等で、品質差をつくり差別化しやすいカテゴリです。 第二の理由は、今後も一定リアル店舗が残り続けることが想定される小売業態において、惣菜はリアル店舗での購買行動が残り続ける蓋然性が高く、今後もリアル店舗への来店促進の起点となり得るカテゴリであるという点です。 消費のリードタイム/購買頻度/ブランド・商品へのスティッキネス等の観点で、衣類や、日雑・トイレタリー、ドライ食品・飲料(菓子類、ペットボトル飲料 等)が、まとめ買い・オンライン購買が進みやすいのに対し、消費のリードタイムが短いため都度買いされることが多く、多くの消費者がシーン・気分に合わせた買い回りニーズを持つ惣菜は、リアル店舗での購買が適しており、今後ECが拡大しても、リアル店舗での購買行動が一定程度残り続けるでしょう。 こうした中、将来的に惣菜カテゴリで差別性を築くためには、高品質・高コスト効率な垂直統合型サプライチェーンモデルの構築がポイントになっていくでしょう。