「ここまで来たなら先発で終わりたいなって」広島カープ一筋“211試合連続先発登板”日本記録の野村祐輔(35歳)が余力を残して引退したワケ
余力を残しての決断
もしかしたら、中継ぎとしてユニホームを着続けることができたかもしれない。勝ちパターンではなくとも、ロングリリーフという役割に適性を見いだせた可能性もある。残した実績や年齢を考えると、現役生活にしがみつくことはできたかもしれない。それでも、野村はきっぱりと自ら幕引きをした。 あの日の光景は今でも鮮明によみがえる。2012年4月1日、チームが開幕2連敗して迎えた3戦目。セ・リーグ連覇中の中日がプロ初先発の相手だった。 「開幕すると雰囲気もお客さんの歓声も全然違うので、1カ月前とまったく別物に感じました。これがプロか、と」 青いフェンスが広がるナゴヤドーム(現バンテリンドーム ナゴヤ)には28日前、オープン戦で登板したときとはまったく違う景色が広がっていた。憧れていたプロ野球選手になれた高揚感と緊張感、整理できないさまざまな感情で浮足立っていた。
コントロールミスがもたらした平常心
プレーボール直後の初球。外角低めに要求された直球が、荒木雅博の顔付近に抜けた。 「最初、周りが見えていなかったんですが、あの1球で我に返りました。『力んでいる、力んでいる』って自分に言い聞かせながら、力を抜いて。あの1球がなければ、自分を見失っていたことに気付くことができなくて、もっと早く降板していたと思います」 自身のスタイルを思い出すと、自然と視界がひらけた。捕手のミットだけでなく、打者の表情や味方の守備位置、そして自分がやるべきことが明確になった。冷静さを取り戻し、6回4安打1失点。勝ち負けは付かなかったものの、プロ野球選手として上々の滑り出しとなった。 自身のスタイルに気付いたのは高校時代だった。
(「NumberPREMIER Ex」前原淳 = 文)
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