Production +h 本多史典が向き合う“業界の課題” 「デジタルやAIの力も使う必要がある」
アニメーション制作現場の”本質的なデジタル化”の課題
●制作現場の本質的なデジタル化とは ――アニメの現場のデジタル化について、ただアナログのツールをデジタルに置き換えただけでは、本当の意味でデジタル化したとは言えないという話をされていました(※)。この点について詳しくお聞かせいただけますか。 本多:簡単に言うと、今までの風習やルールに囚われて変えられない部分がまだたくさんあるんですけど、もっとデジタル化すればやれることがあると思うんです。 例えば、カット袋やタイムシートなど、完全にデジタル化すれば必要ないものがまだ存在しています。デジタル原画のタイムラインのデータをそのまま動画・仕上げに仕組みさえ整えば引き継げるはずなんですけど、今はタイムラインのデータを紙に写し直して、それを撮影さんがわざわざタイムシートを見ながら作業しているので、そういうのは変えていきたい。他にもカットのデータが更新されたら、編集さんに差し替えてもらっていますが、単純作業的な業務は自動化できないかとかと考えています。 ――そういう本質的なデジタル化が上手く進まないのはなぜでしょうか? 本多:これはAI化にも関係する話だと思いますけど、自動化されることで仕事を失う人は絶対にいるわけで、それも大切に考えないといけないことです。でも、その人たちがやっていたことってなんだろうと考える必要もあります。例えば編集さんは、ただカットを差し替えるだけの人ではありません。差し替えたことで問題が起きた時に、それを報告してくれる人でもある。では、差し替えはAIで自動化しても、報告を人がちゃんとやれるようにした方がいいんじゃないかとか、その人にどういう役割を担ってもらうか検討して、きちんと対価を支払わないと納得してくれないですよね。 美術・背景でも、AIで画風を学ばせる研究がされていると思いますけど、学習された側の心情を考えると、それに対するマージンとかがないとおかしいじゃないですか。そういうことを考慮しながら、今後AIも含めてデジタル化を進めてクリエイターにとって本当に理想的な環境は何かを考える必要があると思います。 ――AIの導入について、例えば動画・仕上げをAIにやらせるとなった場合、今度は育成の機会がなくなる不安も出てくると思いますが、そこも別の方法を講じる必要があると思いますか? 本多:今、人材が不足している部分とそうでない部分があると思います。原画マンは足りてないけど、動画・仕上げは海外に膨大なキャパシティがあるので、なんとかなってしまっている。とりあえず原画を作れるなら、アニメの現場は回るという状況になっているので、そこをどう考えるべきかですね。それに、AIにも得意・不得意があり、いわゆるタップ割的な引き写しで動きを作るのは得意でも、向きが変わったり角度が変わるものは、元の絵にない部分を作らないといけないので苦手だったりする。いいものを作ろうと思えば、どうしても時間がかかりますから、省力化できるところでデジタルやAIの力も使う必要があると思います。 ――実際に、これまでのプラスエイチの制作過程で、作業効率化に貢献できたものはありましたか? 本多:やはり、リアルタイムに状況を共有できるGoogleドキュメントはありがたいです。例えば、タスクをドキュメント上で割り振って見れるようにしたり。V編会場でドキュメントにタスクをどんどん書いていけば、現場ですぐにそれを見て、作業が終わったらすぐにドキュメント上で報告できるようにしています。昔はこれを、V編会場から電話して、お互い見えない状態でやり取りしていました。それを、実際の画像をみながら、ドキュメント上でリアルタイムで正確に指示できます。あとは、打ち合わせをリモート化したことで録画できるようになったのは大きいですね。言った・言わないのもめごとを回避できるようになったので。さらに、その打ち合わせを別の人に「これ見ておいて」と言うだけで伝えられるようになったのも大きいです。今までは新しい人が入ると、もう一回打ち合わせしないといけなかったりしたので。 ●人を育てながら会社を大きくしたい ――プラスエイチの目指すべき方向は、どんな方向だとお考えですか? 本多:ゆくゆくは会社を大きくしていきたいと思っていますが、一番優先順位が高いのは、「人を育てること」です。新人ばかりで制作力が弱い状態で作品を作っても、スタッフに迷惑がかかるしスケジュールが破綻してしまうので、そうならない環境を作るために、制作進行もアニメーターも育てたい。育てながら少しずつ大きくなっていけばいいかなと思っています。粗製乱造のようにはなりたくないので、基本的には一つひとつの作品をしっかりと大事に作っていく方向でやっていきたいです。 ――プラスエイチでは企画をどういう基準で選ぶのですか? 本多:基本的には僕がやりたいものというより、やりたいスタッフがいるかどうか、それに対して予算とスケジュールなどがマッチするかどうかです。あと、人気原作をやりたくないわけではないですけど、だれもやりたがらないような難易度が高かったり大変な企画をあえてやるんだって気持ちは、IG時代から引き継いでいるのかなって気はします。 ――次回作にもすでに取り組んでいるんですか? 本多:次回作はオリジナル作品です。オリジナルの『地球外少年少女』、原作ものの『デデデデ』ときているので、上手く交互にやっていける環境になるといいなと思っています。IG時代からオリジナル作品を経験していますが、すごく面白い反面、大変さもあります。原作ものには原作ものの大変さがありますが、頭の使い方が変わるので、バランスよくやっていきたいと思っています。 参照 ※ https://branc.jp/article/2024/06/05/1110.html
杉本穂高