【西武投手王国への道】極端な得点力不足により負のサイクルに陥った投手陣「アブレイユがホールドを何個記録しているのか。異常な数字です」(豊田コーチ)
負担が蓄積された厳しい運用
負のサイクルに陥ったのは中継ぎ陣も同様だ。チームが4月中旬から敗戦を重ね、打線と並ぶ「敗因」と指摘されたのがブルペンだった。事実、防御率は先発陣の2.85に対しリリーフ陣は3.41と劣っている。 その苦境をよく表す数字がある。 「アブレイユがホールドを何個記録しているのか。異常な数字です。この背景を深く考えてほしい」(豊田コーチ) 今季ヤンキースから加わったアルバート・アブレイユはリーグ2位の28セーブに加え、11ホールドを記録。西武では佐藤隼輔の17ホールドに続く数字だ。つまり、守護神を同点でも使わざるを得なかったのである。 今季の西武は開幕直後から僅差の敗戦が続くなか、勝ちゲームのセットアッパーと期待された甲斐野央が4月24日に右肘の違和感で登録抹消、さらに本田圭佑は投球フォームの改造がはまらず防御率5.06と悪化させて5月16日に二軍落ちした。 ブルペンが想定より手薄になる一方、味方の援護がなかなか期待できない中での勝ち筋は最少リードを守り抜くことしかない。同点や僅差のビハインドでも勝ちパターンのリリーフを使わざるを得なくなり、「1点もやれない」という重圧の中で負担とダメージが蓄積されていった。厳しい運用を豊田コーチが振り返る。 「同点の9回にアブレイユが行き、甲斐野、隼輔、本田と勝ちパターンとは逆の順番で下っていく。最後はルーキーの糸川(亮太)ということもありました。その間に1点入れば、たとえ1点失っても同点でしのげます。でもリリーフを3、4人突っ込むと、どこかで点を取られるのが野球じゃないですか」 プロ野球でチーム防御率の目安が3.00だとすると、裏返せば1試合平均3点は取られるということだ。勝利するには、それ以上に点を取ることが必要になる。 だが、今季の西武打線は1試合平均2.45点。得点力不足で投手頼みの試合が続き、チームに生まれた歪みが歴史的低迷を招いたわけだ。 「防御率が悪くなったのは、チーム状況によって去年少し芽が出てきた若手を使わなければならなくなったこともあります。それにヤンは1イニングでの複数失点が何回もありました。そう考えたら年間15失点は減らせたはずです」(豊田コーチ) 新外国人のジェフリー・ヤンは勝ちパターンで期待されたが、37試合で防御率5.58とはまらなかった。 対して若手では、開幕前に抑え候補に挙がった豆田泰志は15試合で防御率6.32。6月に支配下登録された菅井信也は7月15日のオリックス戦(ベルーナ)で初勝利を挙げたものの、8試合で防御率5.25とプロの壁にぶつかった。菅井と同じ高卒3年目の大型左腕・羽田慎之介は9試合で防御率2.76と及第点を残したが、フィールディングで雑さを見せるなど課題も露呈した。 「今年の大敗がなければ一軍に上がってきてないかもしれない投手もいます。例えば羽田の守備を考えると一軍に上がれないと思うけど、無理やり上げて一つ勝ちました。彼らにとっては実りある1年だと思います。これをどうつなげるかがすごく大事になっていく」(豊田コーチ) 表と裏、攻撃と守備で構成される野球の難しさが、西武にはあらためて感じられた1年だった。極端な貧打の裏で今井と武内が10勝を挙げるなど投手陣は一定の力を示した一方、チームを勝ちに導くほどではなかった。その原因をどう分析して、来季以降につなげていくか。豊田コーチの言うように、未来の糧にするしかない。
週刊ベースボール