殺人も拉致もいとわない「トクリュウ」凶暴犯からから身を守る防犯ポイントは「開口部」「抵抗時間」「内開き扉」
一般住宅に押し入って住民を縛って暴行するなどの凶悪強盗事件が頻発している。8月以降、首都圏を中心に14件発生。10月15日には横浜市青葉区で男性が殺害される強盗殺人事件、17日には千葉県市川市の住宅から女性が拉致される事件も起きた。 【写真あり】自動追尾も360度撮影も!進化する防犯カメラ 「これまで実行役など約30人が逮捕されましたが、指示役など首謀者についてはまだ解明されておらず、社会に不安が広がっています。いきなり窓ガラスを割って侵入し、住民を縛ってけがをさせ、現金などを奪うといった荒っぽい手口が目立ちます。 いずれもSNSで実行役を募集する闇バイトが絡んでいたとみられますが、いわば強盗犯としては “素人” の犯行だけに、従来とは違った防犯対策が求められています」(事件担当記者) 実行犯がお互いに面識がないことも多く、最近では、こうした犯罪を「トクリュウ(匿名・流動型)」と呼び始めた。従来の常識で対応できないとしたら、凶悪な強盗犯からどう身を守ればいいのか。防犯対策に詳しいセコムIS研究所の濱田宏彰研究員に聞いた。 「犯罪者には『捕まりたくない』という心理が働くものです。強盗犯にしても、いち早く “仕事” を終わらせて逃げることで、彼らの “ビジネス” が成り立つんですが、最近の闇バイトが関わる強盗は、捕まることをあまり恐れていないように思えます。 しかも、指示役に『人を殺めてでもいいから盗んでこい』と命じられているかもしれず、何をするかわかりません。自分の命を守るために、どう行動するか。そのイメージを日頃から意識していることで、いざというときに、いち早く、被害にあわないための行動が取れるはずです」(濱田氏、以下同) まず何よりも、家への侵入を防ぐことが身の安全を守る大前提となる。 「玄関、窓、一戸建てなら勝手口など、侵入されやすい “開口部” を守るのです。玄関に関しては、不在時はもちろん在宅時の施錠に加え、補助錠を追加してつければ、侵入するまでの時間稼ぎができます。 同じく侵入口になる窓も、玄関同様、補助錠をつけるべきですが、補助錠はできるだけ窓の上のほうにつけたほうが、犯人が背伸びをして作業をしなければならなくなるので、外から目につきやすい。窓が開かなくなるサブロック装置を使うのも効果があります」 だが、ほとんどの場合、窓ガラスを割って侵入してくるケースが多いので、補助錠だけでは効果がない。 「ガラスを割られないように『防犯ガラス』にしたほうが、より侵入を防ぐ効果があります。これは2枚のガラスの間に頑丈なフィルムがはさんであるため、窓をハンマーなどで叩かれても貫通しにくいのです。しかし、『防犯ガラス』は、大きさにもよりますが、10万円以上と高額なものが多いです。 次善の策としては防犯フィルムがあります。窓ガラスの内側にフィルムを貼ることで、窓ガラスが割れにくくなります。ホームセンターではA3サイズのものが4000~5000円で売られています。 ただし、フィルムの周りは弱いままなので、弱いところを割って鍵に手が届く、もしくは貼った部分がそのまま抜けてしまうこともあるので、ベストな方法としては、窓ガラス全体にフィルムを貼っていただくのがいいと思います」 侵入者が、鍵や窓を破壊して建物の内部に侵入するまでにかかる時間を「抵抗時間」と呼ぶ。この「抵抗時間」は、警察庁による調査では「5分間」という結果が出ている。これは、防犯製品を買う際の目安にもなる。 「侵入者が建物の内部に侵入するまで5分以上かかると確認されたものが『防犯建物部品』として、2004年に公開されています。防犯建物部品には『防犯』を意味するCrime Preventionの略称である『CPマーク』がついています。この『CPマーク』が安全性の保証になります」 一戸建ての場合、 “開口部” としてはほかに勝手口がある。 「勝手口は玄関と同様に考えていただいていいと思います。ただ、勝手口のドアには採光目的にガラスが入っていることがありますので、ガラスも強化しないと、ガラスを割って、手を突っ込んで鍵を開けられる可能性もあります」 センサーライトや防犯カメラも侵入者を思いとどめさせるためには効果がある。 「センサーライトは人が通るとライトが点灯します。ほかにも人が触れると音が鳴るワイヤーセンサーや、人が通ると甲高い音がする『防犯砂利』も侵入を防ぐ効果があります。 いずれにしても、外で変な音が聞こえたら、躊躇なく警察に通報したほうがいいでしょう。警察につながったら、すぐに電話を切らないで、そのまま通話状態にしておくようにと、警察では指導しています」 こうした侵入を防ぐための対策が、闇バイト系の強盗にも通用するかというと、話は別だ。 「一般的な強盗だと、捕まりたくないと考えるので、できるだけ住人と会わないようにするはずです。 しかし、昨今の闇バイト系の雇われ強盗は、おそらく指示役の言われるままに行動するので、住人がいても侵入される可能性が高い。強盗と鉢合わせしてしまう可能性もあるわけです。 そうなってしまえば、センサーライトや防犯カメラといった侵入を抑止する対策では効果がありません。実際、無理やりに侵入されて、命を落とすケースもありました」 もし、強盗犯に遭遇してしまったら、どうしたらいいのか。 「間違っても犯人と戦おうとしてはいけません。戦う以前に、とにかく逃げる。可能であれば、外に逃げるのが一番いいのですが、逃げるタイミングを逸したら、家の中のどこかに逃げ込むしかありません。ただ、家の中にシェルターのような部屋を確保するのは狭い日本の家では考えにくいでしょう」 可能なら、シェルターとは言わないまでも、強盗と鉢合わせしたときに逃げ込める部屋をあらかじめ決めておくべきだという。 「携帯電話をそばに置いておき、閉じこもれる鍵つきの部屋を用意することが重要です。トイレも鍵がかかるという意味ではいいのですが、1人しか入れないのが難点です。 どこか鍵のかかる部屋で、できればドアが内開きの部屋だと、外からこじ開けようと思っても時間が稼げます。タンスなど重石になるものを置けば、外から開けようと思っても時間がかかるでしょう。防犯のため、海外では圧倒的に『内開き』が多いのです。 そして、強盗犯が侵入してきたら、携帯を握りしめて決めておいた部屋へ逃げ込み、すぐに110番することです。万が一、家に入られたら『逃げる』『部屋に閉じこもる』『通報する』。そのイメージを日頃から持つことです」 安全のためには、日ごろからの近所つき合いも大切だという。 「『お隣さんで変な物音がする』と、110番してくれるかもしれません。お互いを助け合うような関係を近所で作っておくことも、万が一のときの被害拡大防止には効果があると思います」 重要なのは、「自分だけは被害にあわない」と楽観しないことだ。