「やっぱり高校野球っていいな」 昨春センバツ消えたOBら感慨
2年ぶりにセンバツ甲子園のスタンドに観客が戻った。19日に開幕した第93回選抜高校野球大会。新型コロナウイルスの影響で前回大会が中止となり、悔し涙に暮れた選手たち、見守ってきた保護者、OBら――。それぞれがコロナ禍と向き合って1年。新たな思いでスタンドに集った。 第2試合の一塁側内野指定席。フェンス越しに入場する明徳義塾(高知)ナインを見つめ笑みをこぼしたのは、昨年この舞台に立つはずだった卒業生・奥野翔琉(かける)さん(18)だ。 2年生のとき夏の甲子園に出場。2回戦で逆転負けした悔しさから3年の春でのリベンジを誓い、厳しい冬季練習に耐えた。準備は万全でセンバツに臨むはずだった。しかし2020年3月11日、大会中止が発表された。チームとして冬の成果を試す場が無くなったことが何より悔しかった。ミーティングで中止の連絡を受けた後は、みんなで泣きながら食堂に行ったのを今でも覚えている。 さらに夏の甲子園も中止になったことで練習は早くから下級生中心になった。「下級生にはまだ先があるので、とにかく甲子園に行ってほしいという気持ちで積極的に(技術を)教えていた」と自分たちの思いを後輩に託していた。 スタンドから見た甲子園は「卒業した後も『高校野球って良いな』と思える場所」だった。この日は初戦敗退で悔しい試合になったが、生き生きとプレーする後輩の姿は社会人野球に活躍の舞台を移す奥野さんにとって刺激になった。「高校野球には社会人とは違う迫力や一球に懸ける思いがある。自分の高校時代を思い出した。後輩たちに感謝したい」。次は社会人野球の舞台で夢を追う。 対する三塁側仙台育英(宮城)のアルプス席には、硬式野球部保護者会の約120人が応援に駆け付けた。木村航大捕手(3年)の父、木村敬一会長(49)は、19年の夏の甲子園に息子が出場してから、毎年甲子園に足を運んできた。 昨年夏のセンバツ交流試合も保護者は観戦できたが、コロナ禍前の19年夏の甲子園の様子を見ていただけに「観客がいっぱいいて、応援もあって、ブラスバンドがいて、忘れられない」と話し、早く元の姿に戻ることを願っていた。 今大会は観客数の上限が1万人。「(人数は)抑えられたが、高野連もできる限りのことをしてくれた。やはり喜びを感じる」と球場を見渡した。無失点で初戦を突破した仙台育英。「細かくピッチャー陣がよく抑えた」と話し、チームをたたえた。 第3試合、健大高崎(群馬)の一塁側アルプス席には、野球部後援会長の倉持純晃さん(57)が駆け付けた。長男の雄太さん(35)が同好会として創部した01年から野球部を見守り続けてきた。 「最初はとりあえず集めただけ、というチームでした」。当初の部員のほとんどは野球未経験。それから20年。春夏合わせて甲子園に8回出場する強豪校にまで成長を遂げた。昨年のチームは明治神宮大会で準優勝するなど、悲願の日本一へ期待が高まっていただけに中止決定は衝撃だった。「コロナ禍の前は当たり前だったものが、一瞬で消え去った」と落胆したが、その悔しさを力に変え、関東大会を連覇した今の3年生の活躍を見てきた。 今年こそ全国の頂点へ。倉持さんは「去年先輩が立つはずだった舞台に立っている。先輩の分まで存分に暴れてほしい」と初戦を突破した選手たちに静かにエールを送った。【北村栞、面川美栄、川地隆史】 ◇全31試合を動画中継 公式サイト「センバツLIVE!」では、大会期間中、全31試合を中継します(https://mainichi.jp/koshien/senbatsu/2021)。また、「スポーツナビ」(https://baseball.yahoo.co.jp/senbatsu/)でも展開します。