「親日派」尹錫悦大統領はどこで間違えた、韓国与党が想定以上の惨敗
(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使) 10日に投票が行われた韓国の総選挙の結果が出た。国会の300議席(小選挙区254議席、比例区46議席)を争う選挙である。 【写真】選挙戦のさなかにガッツポーズを見せる曺国氏。数々の疑惑にまみれ法相の座を降りた人物だが、「祖国革新党」を結党して臨んだ総選挙でなぜか多くの支持を集めた 韓国の国会はこれまで、与党「国民の力」114議席、最大野党「共に民主党」156議席という「ねじれ」状態にあったため、国政に必要な法案の可決もままならず、政府与党にとっては今回の選挙で多数を獲得することが悲願であった。 一方、野党は尹錫悦政権の独走を阻止するため、政策論争ではなく「政権審判論」を打ち出して対抗した。 ■ 「与党優勢」の状況を変えた玉ねぎ男 選挙戦の情勢分析について、3月上旬ごろまでは、与党が五分ないしそれ以上の戦いを繰り広げていると見られていたのだが、文在寅政権時の法相で不正疑惑が噴出し「玉ねぎ男」と呼ばれた曺国(チョ・グク)氏が「祖国革新党」を立ち上げ、比例区に候補者を立てたころから革新系野党に勢いが出始めた。その勢いのまま、選挙結果は野党「共に民主党」の大勝利となった。 与党「国民の力」はかろうじて大統領の拒否権妨害と弾劾を阻止できる3分の1以上の108議席を確保したものの、野党が共闘すれば国会で主導権を握れる180議席獲得を阻止できなかった。 今回の選挙結果となった要因と今後の政局の見通し、尹政権の対応について以下の通りまとめた。選挙結果が劇的であっただけにこのような事態は十分想定されておらず、今後どうなるか不確定要素が多い中でとりあえずの見通しである。今後の事態の推移を見守りながらさらに分析を進める必要があろう。
■ 避けられない尹政権のレームダック化 選挙戦後半には、野党有利の情勢となっていたが、与野党の獲得議席によっては尹錫悦政権のレームダック化は避けられるのではないかとの期待もあった。 大統領の権限は強く、尹大統領が原理原則を重視する性格であることから、労働・教育・年金改革などの主要な政策課題が野党によって邪魔されても、政策を変えるようなことはないだろうとの見方が多かったのだ。 また、今回の総選挙で与党が敗北した場合、3年後の大統領選挙に向けて与党内で尹大統領の基盤が弱体化するにしても、その後継者として有力な「国民の力」非常対策委員会(臨時執行部)の韓東勲(ハン・ドンフン)委員長が尹大統領の側近であるため、尹大統領の影響力ある程度残りうると見られていた。 しかし、総選挙の結果は惨敗であった。 これで野党の攻勢は強まり、野党が対決色の強い法案を国会で成立させる可能性は高まった。民主党は、単独で法案を可決することが可能となるだけでなく、他の野党(例えば曺国氏の祖国革新党)と協力すれば、「ファーストトラック」(迅速処理案件)と呼ばれる制度を利用して、法案を可決することが可能となる。 尹大統領はこれに拒否権を行使できるにしても3年後の大統領選挙を意識すれば強引なことはできまい。国民を納得させうる事由を示すなど、慎重に行使する必要が出てこよう。そして与党が進めようとする労働・教育・年金改革は棚上げとなるだろう。今後政局の主導権は完全に野党が握って行く構図になる。